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「いや、変なことは言ってない。めちゃくちゃ可愛く可愛いことを言っただけ。で、俺がめちゃくちゃ動揺しただけ」  ははって笑って僕を抱きしめて、そして頭を撫でてくれる。 「今のはかなりキた。も、可愛くて可愛くて俺どうにかなりそう…」  恥ずかしそうにそう言ったりっくんは、僕を抱き抱えたままベッドまで移動して、すとんと座ると僕を膝に乗せた。今日は横向き。 「こんなことになるなら、ゴールデンウィークどっか休みにしとけばよかった。バイト仲間に彼女と旅行に行くから代わってって言われてさ、次の水曜シフト入れちったんだよなー。あと、うちの方も長めに入ってっし」  膝の上の僕を抱きしめて「あーあ」って言ってるりっくんの拗ねたみたいな顔がかわいい…って、 「あ」 「ん?」 「うち、ゴールデンウィーク後半の木金土、旅行行くんだった。忘れてた…」  すっかりキレイに完全に忘れてた。 「それは忘れなくない? さすがに…」  りっくんが眉を歪めて笑う。 「だって…、もうりっくんでいっぱいで、他のことなんか…っ」  また、ぎゅうって抱きしめられた。りっくんは僕を腕の中に閉じ込めて、頭をすりすりと擦り寄せる。 「…なんか空が可愛すぎて、俺死にそー…」 「え? え? え? りっくん?」  なんで?なんで?って思いながらりっくんを見たら、りっくんは僕を見上げてふわっと笑った。  …すっごい綺麗… 「こんな可愛くて可愛くて可愛い恋人ができて、俺ほんっと幸せ」 「……っ」  身体中の血管がぶわっと膨張したみたいに、みるみる体温が上がっていくのが分かる。 「うわっ、空、なんかあったかくなってきた。ドキドキしてる?」 「ず…ずっとしてる…っ」  もう、普通がどれぐらいか分かんないくらい。 「そっかそっかぁ。かーわいいなぁ…」  身動きもできないほどしっかりと抱きしめられて、僕こそものすごく幸せだ。 「旅行、楽しんできて。会えない間もメッセージ送るし」 「…うん。僕も送る…」 「お! 楽しみにしてるよ。つかまだもちょっと先だけど」 「うん…」 「今度の水曜、会えなくてごめんな?」って言われて、僕も「土曜日会えなくてごめんなさい」って言った。  そしたらりっくんが「謝んなくていいんだよ」って言ってくれて、そしてまたキスをして、遅くなる前に家に帰った。りっくんは参考書の入ったエコバッグを持って送ってくれた。 「次はゴールデンウィーク終わってから、になるな」  って言われて、まだ始まったばっかりなのにって思いながら手を振った。  毎日会えたらいいのにって、つい贅沢なことを考える。  あ、でもりっくんがおうちのコンビニにいる日に会いに行けばいいか。  お母さんに「ただいま」って言って、レシートとおつりの入った封筒を渡して、でも顔は見られなくてこそこそと自室に入った。  ベッドにばふんと横になる。  …キス…した…。りっくんと…。  思い出せる。りっくんの唇の温度や舌の感触。    身体の奥がぞくっとして、ベッドの上をごろごろ転がった。  やばい。すぐご飯だから落ち着かなきゃ。  普通の顔をして「やっぱり一緒に参考書選んでもらってよかった」っていう話をしながら、みんなでご飯を食べる。くれぐれも余計なことを言わないように。変な反応しないように。  階下から母の「ご飯よー」って言う声が聞こえた。 「はーい」  ベッドに腰掛けて、大きく息を吸って、吐く。3回繰り返して「よし!」って立ち上がった。  お父さん、お母さん。かくしごとしてごめんなさい  でも僕は今、すっごく幸せです。
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