第二十四章 卒業の日

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 伊織は駿に連れられながら、首を横に向けた。 「待った。ちょっと待ってくれ、駿」 「何ですか?」  寄りたいところがある、と伊織が向かったのは、学校園だった。  まだ春も早く花の姿は見えないが、緑の息吹が力強い。 「駿、この小菊を覚えているかい?」 「あ、これは……」  初めて伊織さまとお喋りした時に、話題に上げた、小菊。 「小菊の花言葉を調べてみたらね、『逆境の中でもめげない』とあったよ」  まさに、君にぴったりの花言葉だと思わないか?  伊織はそういって、菊の葉を撫でた。  もう、あの可憐な花は咲いてはいないが、逞しい若葉が吹き始めている。 「君は、本当によく、私について来てくれた」 「嫌ですよ、伊織さん。過去形にしないでください」  そうだった、と二人で笑った。  これからも、共に歩むのだ。  新しい世界を、まだ見ぬ道を。
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