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今日も来なかったな。
それは落胆であり安堵のようなものだった。
実際のところもし出会ってしまったら、私はどんな顔をするのだろう。
すいぶん遅かったね、と冷たくあしらうのだろうか。
会いたくなかったって、つい意地を張ってしまうのだろうか。
考えてもしょうがないというのに。
むしろ私のことを覚えていてくれている保証はないのに。
それなのに、会いたいという気持ちは忘れることもなく、強くこの場所に縛り付けた。
ふいに、懐かしい匂いがした。
濡れた私の身体に降る、冷たい雨を遮ってくれた温かな――。
「モモちゃん? あなたモモちゃんよね?」
おそるおそる視線を向けた先に、一人の老婆が立っていた。
「…………!」
胸をしめつける強烈な想いが、波のように押し寄せてくる。
私は、ただ、用意していた台詞などすっかり忘れて、四つ足で地を蹴り、夢中でその場を駆け出していた。
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