スキでダメで、やっぱりスキで。

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スキでダメで、やっぱりスキで。

「久しぶりー。たっくん、元気してたあ?」 「おう、元気元気、ひさしぶり……って、ええええええええええええ!?」  それは、夏休み明けの九月のことだった。  教室で耳慣れた声に呼びかけられて、俺はいつものように返事をし――そしてひっくり返ったのだ。  目の前にいるのは、確かに五年二組の俺の親友、虹岡瑛(にじおかえい)である。目が大きくてぱっちりしてて、ほっぺがもちもちしてて白くて、子役をやっていると言われても通りそうな可愛らしい顔立ちの。  しかし、彼は男だったはずだ。いつもそれも、俺の幼稚園の時からの幼馴染。冬近くになるまで半袖半パンで走り回るような、元気いっぱいの少年。同時に、藍色のランドセルを振り回して硝子を叩き割り、俺と一緒に先生から逃げ回った武勇伝を持つ人物でもある。ある意味、とっても少年らしい少年だったはずなのだ。  それが、一体どういうことだろう。  彼はいつものボブカットにピンクのカチューシャをつけている。そして、お姫様が着るようなフリフリした薄ピンクのワンピースを着ているではないか。  しかも持っているランドセルがピンク色になっていて、女の子が好きそうな可愛いキティちゃんのキーホルダーがついている。そう。  誰がどう見ても、女の子の姿なのだ。 「お、お、おま、おま……虹岡瑛だよな!?え、えええ?」 「たっくん何言ってんの?何でフルネームなわけ?瑛は瑛です、それ以外の誰でもないです」  彼は昔から自分のことを名前呼びする少年だった。それが別にぶりっこという雰囲気でもなく、妙に似合っていたので気にしたことはないが。  そのせいで余計、喋り方にも差がないというか。声も話し方もいつも通りなのに(もとより瑛は声変わりもしていないし、男の子にしては声が高いタイプだったので)姿だけが少女になっている。いや、もうわかりやすく言おう。女装している。 「な、なんで女装?お前、そういう趣味あったん!?」  ひっくり返った声で俺が言えば、彼――いや彼女はますます呆れた顔で告げたのだった。 「マジで何言ってんのさ。瑛は昔っから女のコですが?ひどくない?いくらお転婆キャラだからってさあ。ほら」  何をしてくれちゃってんの、と思った。何故なら瑛は、俺の手を掴んで自分の胸に押し当ててきたのだから。  掌には間違いなく、男の子にはないふくらみが。 「くぁwせdrftgyふじこlp!?」  俺は見事のその場で、鼻血をふいて倒れることになったのだった。
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