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「ひどい。ひどいよっ」
わたしは泣きながら宝の肩を叩く。
「え⁉︎」
「可哀想じゃん!橋田さん」
「……は?誰か知ってたの?いやまって。ちょっと聞いて?けど、向こうも、好きだった先輩が忘れられなかったらしいから、お相子だろ」
「ほんとなの?それ」
「ほんとだよ。すぐより戻してたし、今も付き合ってるし」
黙り込む。黙って残り一つのコサージュを作る。
作り終えた宝は「できた」って言って、もう一度わたしの目を強く見て、わたしの名前を呼んだ。
「さり」
ゆっくりと宝のほうを向く。
「勝手かもしれないけど、もう一回……俺と付き合ってくれませんか」
拭いてきた風にカーテンがはためいて、夕焼け色の宝の黒髪が、舞い上がった。
「俺、頑張り屋さんのさりが好きだよ」
そう言いながら、宝がわたしの隣に移動してきて、手を差し出す。
「でも、頑張りすぎないように、俺が見張らなきゃ」
その手を握って立ち上がると、欲しかった温もりにふわりと身体が包まれた。
宝の胸の中、くるしくて、幸せ。
「たから……」
手を伸ばして、ずっと触りたかった髪に指を通す。
ずっと我慢してた大好きな気持ちが、涙と一緒にあふれてくる。
「ごめね。ごめんね宝。わたし、今度はぜったい別れるなんて言わないっ」
「うん」
「思いやりのある、可愛い彼女でいる」
「……うん」
「ほんとはわたし、ずっと、宝が好きなまま……」
両手で頬が包まれて、唇に、宝のあたたかい感触と熱を感じた。
大好きな匂い。温もり。ぜんぶが懐かしくて愛おしくて。
優しい吐息が当たるたびに、胸がぎゅっと締め付けられた。
トロンとした光が教室じゅうを包んでいる。
宝との半年ぶりのキスは。
甘くて、少しだけ、痛かった。
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