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「では……僕はこの犬上の家を出ます」
「浩司、お前何を言って……」
父さんの悲鳴にも似た言葉を僕は最後まで聞かなかった。
「父さんは黙っていて下さい!!」
「何故あの女にそこまで拘るのだ。いや、百歩譲って拘るのは良しとして、なにゆえ掟まで踏みにじろうとするのだ」
「彼女が嫌だと言っているからです。僕だって何度も話し合いました!! でも、彼女はどうしてもいやだというんです。どうしても譲れない線がある。これ以上この話を続けるなら、別れるとまで……」
彼女は胸元に愛犬を抱きしめ、今までに見たことがないほど烈火の勢いで僕に怒りを向けてきた。
「絶対いや!! そんなこと、できるわけないでしょ!!」
その目じりに浮かぶ涙を見ては、僕も引き下がるしかなかった。
犬上の人間が成すべき正しい選択をできる人間であれば、ここで関係を終わらせることも止む無しとしただろう。だが、僕は彼女が好きなのだ。彼女を心から愛している。
「だから……だから僕は犬上の家を出るのです!!」
「どうしてもか? どうしても犬がみけの掟に従えぬというのか」
「もう、決めた事なんです。彼女の愛犬はキャラメルブラウン一色のミニチュアダックスフンド、ステラちゃんなんです!! 名前をミケにするのも、ステラちゃんを三色に染め直すのも、手放して三毛の犬を新たに飼うのも無しなんです!!」
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