犬上の掟

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 その後、僕に倣った反逆者が一族の中に次々と現れ、無事に崩壊したとかなんとか。 「どうでも良いことだよなぁ」  そう言いながらステラちゃんの頭をなでようと手を伸ばす僕。  だが、鼻頭にしわを寄せ、牙をむきだしてグルルとステラちゃんは唸り出す。  一緒に暮らし始めて一年が過ぎようとしているが、僕はちっともステラちゃんに仲良くしてもらえない。  こっちのほうがよほど大きな問題なのだ。 「なあ、どうしたら仲良くしてくれるんだよ」 「だから、時間をかけて仲良くならなきゃだめよ。ね、ステラ」  僕の愛する人が伸ばした手に対して、ステラはむしろ進んで頭を差し出す。  人間相手には偉大な力を誇った犬上の名も、本物の犬の前では無力に等しい。自分ひとりの力では犬の信頼すら手に入れられない僕だが、それ以上に大きなものをすでに手にしている。  だから今の僕はおおむね幸せに生きている。
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