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第1話「俺、男なんですけどいいんですか?」
「すみません、ちょっといいですか?」
改札を出て数歩のところで呼び止められ、振り返る。
「私、こういう者なんですが。雑誌のモデルにご興味はありませんか?」
スーツ姿の好青年はにこやかに名刺を差し出してくる。それを見て俺は答えた。
「俺、男なんですけどいいんですか?」
「あっ……声低っ……」
彼は思わずといったふうに呟いていた。その反応も無理はない。ツーサイドアップに束ねたロングヘアにセーラー襟の制服。冬服なので喉仏をじっくり観察しなければ女の子に見えるだろう。
「ダメみたいっすね。じゃ、失礼します」
俺は男性に軽く頭を下げて歩き出す。自分の長い髪が視界の端でさらりと翻った。
「あのスカウトマン、勿体ない。畔はこんなにかわいいのに」
俺の陰に隠れていた双子の妹の閑はそんなことを言いながら隣を歩く。
「女性用の服のモデルならやっぱり女性の体型じゃないとダメなんだろ。条件の不一致だ」
「それもそうか」
「俺の代わりに閑を推薦してやればよかったかな」
「モデルとか興味ない」
「だよな」
商店街を抜けて坂を上っていけば、そこに今日から俺たちが通う高校が見えてくる。入学式と書かれた看板を横目に校門をくぐると、壮観な桜並木に出迎えられた。
「すげー桜だ。絵に描いたような風景」
「そうだね」
伝統ある校舎を物珍しげに眺めていると、背後からざわめきが巻き起こった。
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