ザクロジュースを舞姫に

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「店長の、妹さん?」 「えぇ……少し前から境内で舞いの練習をしていて。夜遅くなる前に帰るようには言っているんだけど」 「舞いの練習、ですか?」 「……そう、もうすぐお祭りがあるでしょ?その前夜に踊る舞」 「そういえば、もうすぐでしたね」  答えながら、戸田は、バックヤードとして使っている納戸に置かれた縄と紙垂(しで)を見る。先日、町内で配られたもので、祭り前に店の回りに縄をまわし、そこに紙垂を取り付けるのだ。このカフェの開店後はじめて祭りを迎えた昨年は、どう取り付けたらいいかわからず、店長と戸田は二人でずいぶんと苦労した。 「前夜祭、そういえば前に安西さんが話してましたね。今年は四年ぶりに舞が復活するんだって」  隣町から通ってくれている常連の安西さんは情報通なので、この町の祭に詳しくても不思議ではない。 「えぇ……お祭りにとっては当日と同じくらい前夜祭の舞は大切なものだから、久しぶりに復活するって噂になって、楽しみにしてくれて……」  不安げに言いよどむ店長に、戸田は元気づけるように続ける。 「だけど、すごいじゃないですか、妹さん。まだ中学生ですよね?なのに、そんな大切な舞台で舞を踊るなんて。確か、四年前に練習中に事故があって、それ以来行われてなかったんですよね」  それも安西さんから聞いたことだった。  四年前、予行演習中にあった事故。かがり火の炎が舞姫の衣装に燃え移った。幸い命に別状はなかったが、火傷をおってしまったらしく、それ以来その舞姫は踊れなくなってしまった。最後の舞姫だったため、継承者もなく、事故のこともあり舞は中止になったままだった。 「うん……でも、まだ本当にできるかは、わからないんだけどね」 「え!?なんでですか!?」  戸田の驚きの声が響く店内で、もう一人のバイトの樹は、いつの間にか掃除を再開していた。この三人の中で樹は唯一地元の人間だが、あまり興味もないといった感じで、すっかり手が止まった戸田のことを気にすることなく、広間の畳を隅々まで掃いている。 「舞を踊るのが、一人だから」
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