【6】

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 瞬くんと気まずい雰囲気になったら嫌だな、と思っていたけど、瞬くんは俺に言い寄った事なんて忘れたのか、また問いつめる事も無く、しばらくしてから俺が寝る予定だったソファベットに移動してパタンと眠り込んでしまった。  ホッとしたけど、俺にはまだ別の問題があった。  景から連絡が一向にない。  メッセージも送ってみたけれど、既読がつかない。  こんな事は初めてだった。  だいたいすぐに連絡をくれるのに。  もしかして、寝た?  それとも瞬くんが勝手に電話に出たのが気に入らなくて、機嫌を悪くしているのだろうか?  俺はなんだか落ち着かなくて、とりあえずテレビをつけていたけどその内容は全く入って来なかった。  一時間程、心ここにあらずの状態でお酒を飲んでいたら、ついに景から連絡が来た。  俺はすかさず電話に飛びついた。 「あっ、もしもしっ、景?」 『……もしもし。今、大丈夫?』  景は低い声の落ち着いた調子で電話に出たけど、なんだか違う。  何が違うのかは分からないけど、微妙な違和感を拭えなかった。俺は努めて明るい声を出す。 「あ、うん大丈夫。ごめん、電話くれたみたいやな? 俺買い物行ってて気付かなくて。瞬くんが勝手に電話に出てしもうたみたいやけど、何話したん」 『今、さくら小児科病院の駐車場に来てる』 「……へ?」  遮るようにそんな事を言われて、目を瞬かせてしまう。  さくら小児科病院って、景があの日タクシーに乗って会いに来てくれた場所だ。  もしかして、また俺に会いに来てくれた? 『修介の家に行こうとしたけど、分からなくて。ごめん、いきなり。今から出てこれる?』 「えっ……もちろん行けるけど、何で来てくれたん?」 『話がしたい。じゃあ、待ってる』 「えっ? 景、待っ……」  景は一方的に電話を切ってしまった。  只ならぬ雰囲気に体がのまれてしまいそうになる。  口調はいつも通りだけど、声は硬かった。  仕事はもう終わったと言っていたし、こちらにたまたま用があったから寄ったわけでも無さそうだ。  やっぱり、瞬くんとの電話で何かあったんだ。  俺は重い足を引きずりながら、財布とスマホをコートのポケットに入れて、もう一度瞬くんの寝息を確認してから家を出た。
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