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月曜日∶オムライス
「ただいま…あれっ?」
「お帰り」
「今日仕事は?」
「早く帰れそうだったからライン入れたけど」
「えっ、ごめん…気付かなかった」
機嫌を損ねただろうか。
パートから帰宅すると、既に一風呂浴びた旦那がTVの前に陣取っていた。これは急いで夕飯の支度をせねばならない。ラインに気付かなかった申し訳なさと苛つきで、帰宅早々心が乱された。
焦るものの、直ぐに支度は始められない。
いつもは私が帰宅してから約2時間後に夕飯だからだ。帰宅したらまず洗濯物を取り込んで片付け、掃除をし、朝やり残した家事を片付ける。
ようやくキッチンに立ったのは1時間後だった。
スーパーで買ってきた品物をしまい、夕飯に必要な材料を取り出す。今日はオムライスだから、玉ねぎ、鶏肉、卵、今朝炊いたご飯。
玉ねぎの皮をむき、みじん切りをしていく。
トントントントン
テンポよくまな板とリズムを刻む包丁。
「痛っ」
私が声を上げても、TVに夢中な旦那は見向きもしない。滲む血をじっと見詰めながら、胸の辺りがキリキリと傷んだ。
仕事は貴方、家事は私。
いつ誰がそんな事決めたのかしら。
でも、貴方の給料明細を見ると私のパートの何倍も稼いでるんだから、何も言えなくなってしまう。
そうよね、貴方が大黒柱。
血が滲まないようにキツく絆創膏を巻き付けながら、目には涙を滲ませる。きっと玉ねぎのせいだ。
細かく切った鶏肉と玉ねぎに塩コショウして炒めたら、ケチャップを入れて水分を飛ばす。そこに温めたご飯を入れて混ぜたらチキンライスの完成だ。
「明日香ー!テーブル用意して!」
「はぁい」
食卓のセッティングは小学校3年生になる娘の明日香の仕事。友達と遊びに行かなければ、だいたい夕飯前はリビングに居てくれる。
明日香がテーブルを整えてくれている間に、卵を溶いてオムライスを仕上げた。冷蔵庫から作り置きのポテサラを出し、インスタントのコーンスープに湯を注ぐ。
「できたよ!」
声をかけると貴方はTVを消していそいそとテーブルに移動した。明日香のオムライスには、ケチャップでハートを描く。貴方は波々模様。
「あれっ、パパのはハートじゃないの?」
「明日香のだけだね」
特にリアクションを取るでもなく淡々と言うと、いただきますをして食べ始める。
スプーンを口に運びながら、絆創膏を巻いた指が時々チクリと痛んだ。
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