レルネ城

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旅疲れでよく眠った翌日、私はケリーを先生として、私が嫁ぐことになるこのレルネという領地のお話を聞く。 グラナード王家というのは、現王家アルベリア王家の分家。 アルベリア王家の血筋が絶えたときに国を継ぐ位置に元からある。 レルネの隣には蛮族と呼ばれる人たちの住む土地がある。 交易がまったくないわけでもない。 それでも宗教的なものからわかりあえない部族で、気を抜いていると公爵様のご家族が皆殺しにされるなんていう、とんでもないことをして壊滅に追い込んでくれる。 部族を支配をするつもりはないし、ここから先は入らないでという境界をつけても、その土地を支配する権利はそちらにはないと攻めてくる厄介な隣人がいる。 よってレルネには三重の壁に守られる城が建った。 王都側から入れば直線で中央までいけるけど、部族側やその他の方向から入ると入り組んだ道となる。 部族のある方向には住宅ではなく、畑や植林場が多くなっている。 それより内側の壁の中は商業と工業の地帯。 その外側の事情から、王都側に商業、部族側に工業となっているようだ。 そしてもう1つ内側の壁の中には、お城という1つの建物だけではなく、軍事に関するものが置かれている。 このレルネの中心となるところも大きいのだけど、レルネには壁の外にも街がある。 中心の城より外が交易都市となる。 城も3年前までは交易していた。 そして襲撃。 他の街は大丈夫なのかというと、一斉検挙となるくらい、大丈夫とは言い難い。 部族がなにもしなければ領地は広くて物資も豊か。 王都に部族を入れないための砦。 「3年前の襲撃事件で中央に住んでいた者たちは蛮族に追い立てられ、殺され、この壁の外に移り住み、街となった経緯もありますが、もともと村はあったので壁の外の発展となったという見方もあります。 壁の内側も3年で蛮族を追い返し、城を取り戻し、住民は少しずつですが戻っております」 公爵様の3年はとても苦労があったことだろう。 「しかしながら、人手不足は否めないので、このように城はまだ半壊のまま。穴を開けられた壁は修繕完了しておりますが、全盛期と同じというわけには住民も少なくまだまだというところです。3年かけてもこれなのですから、元通りとなるのは10年か20年か。再び蛮族に襲われないよう、襲われても対処ができるように領土を治めるのが殿下が国王陛下から指示されていることです」 ケリーはそこまで説明してくれると、では実際に城内を歩いてみましょうと私を連れて部屋を出る。 大きな建物である。 ゆっくり歩いているだけで時間は過ぎる。 私が公爵様に言った言葉を思い返す。 とても酷なことを言ってしまったように思う。 どんなに尽くしても公爵様が余裕を感じられるときはないのかもしれない。 お1人だから。 城を預けられる信頼できる人はいるというのは救いになる。 私が嫁にこなくてもいいはずだとは思っても、公爵様を身近で支えてくれる人を望む。 一番大きな建物であるこの中心には、謁見室みたいなところや公爵様の部屋や執務室、領地内の諸々の事務作業をする場所なんかがまとまっている。 兵舎となるのもこの建物だし、武器庫となるのもここ。 私の部屋は公爵様の住居エリアといったところに与えられている。 元々は半壊している場所に公爵様のご家族が住まわれていたそうな。 壊れていない場所に引っ越してここというだけで、ここが安全というわけでもない。 生活エリアと職務エリアは2階まででおさまるほど、建物は大きい。 3階からは塔にいく道だったり、会議室だったり、少し複雑。 4階、5階は見張り塔。 塔に詰める兵士の休憩部屋があったりするけど、そこまで広くもない。 見張り塔の一番上に出るとよく見渡せる。 壁までの中にこの建物の他にも建物があって、あれはなに、これはなにとケリーが教えてくれる。 ここよりも低いけれど、一番外側の壁にも見張り塔はついていて、警備はされている。 見晴らしはいいけど、前線となる砦はとても見えない。 街なら、あれかな?というのが道をたどるとあるからわかる。 ここは追い詰められると終わりの袋小路だなとは思う。 見晴らしいいけど。 下におりるのがひどく遠い。 私がなにかつくるならロープでも渡して、外側の壁までおりられるような場所をつくるかもしれない。 そんな荷重に耐えられそうなロープをこんな上から吊るすと、強風に煽られてちぎれそうだ。 だったらまだ外側にも梯子をかけるくらいしか浮かばない。 外からの侵入手段になるからつけたくない。 それでも途中の休憩室までなら外側の通路をつくってもいいかもしれない。 半壊になった場所は応急処置のように覆われてはいる。 建物のバランスから考えて、あちらにも塔があったのだろう。 図面も左右対称の建物だった。 そこにあった公爵様の日常を浮かべる。 「殿下は今日はどちらにいらっしゃるのでしょう?」 私はケリーに聞いてみる。 「今日は北部の街ですね。蛮族に一番近い街となります」 「そんなところにいかれてしまうのは不安です」 いなくなってしまいそうで。 私がこわい。 「戦はしていませんからご安心ください。危険ならギルも殿下に行かせません。この領地は砦。そういうところなのです。もしもレルネになにかあっても、サフィア様はご実家に無事に帰させます」 その意味、ちょっと考えた。 私だけは生きられる。 私は自分が死ぬことを怯えているわけではない。 ここに生きる人たちが平和で幸せであってほしい。
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