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ここまでは順調だったのに、停滞期に入ったのか体重が変わらなくなった。
それに、気のせいか息が臭う。
糖分が足りなくなると、体は脂肪や蛋白質をエネルギーとして使い始める。特に脂肪が燃焼するとその過程でケトン体が発生して、臭いが強くなるらしい。糖質制限の効果が出ている証拠だけど、マウスウォッシュを片手に私は暇さえあれば口臭をチェックするようになった。
2ヶ月が過ぎた頃、健康診断の結果が返って来た。渡されたデータを見て私は愕然とした。
コレステロールの値が上昇しているのだ。昨年は正常範囲内だったのが2倍ほどにはね上がっていて、要注意のゾーンに入っている。
油ものは控えていたつもりだが、お肉の食べ過ぎなのかもしれない。
どうしたらいいんだろう。
体重もウエストのサイズも目標の半分ほど達成できている。だけど、臭くなったり不健康になるのは嫌だ。
こんなに頑張ってるのに
全てが徒労とまでは言わないが、急にとても虚しくなった。こんな気分の時にこそ甘いものは私を慰めてくれるのに、今はそれも叶わない。
「おーす」
目の前に紙袋をちらつかせて修也が立っていた。
最悪のタイミングだなと思った。
「…何よ」
「週末のお供に作ってみた」
開けてみると中にはチョコレート色のお菓子が入っている。
「ブラウニー。おまえ好きだろ」
「…知ってるでしょ、ダイエットしてるって」
「わかってるよ。だから…」
「何でそんな意地悪すんの?」
悔しいやら情けないやらで、泣きたくなった。
自分は好きなもの食べて
私に言いたい放題で
いったい何なのよ
「してねえよ。人の話聞けよ」
「聞かない。お菓子なんていらない」
私は半泣きで彼に紙袋を突っ返した。
「…バッカじゃねえの」
修也は真顔で呟くと、私から引ったくるように袋を受け取った。鋭い風が私の手を切りつけた。
戸惑いと後悔がよぎったが、もう後に退けなかった。
「泣いてまでやることじゃねえだろ」
冷たく響く声に、彼の顔が見れなかった。
うつ向く私を残して足音は遠ざかっていった。
修也にはわかんないよ
精一杯、意地を張ってみたけど、涙は止まらなかった。
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