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夜、二つ並んだ布団の一つで昭恵ちゃんは、すやすやと寝息を立てている。昭恵ちゃんが私を好きだったと言ってから何にも進展はない。それはそれで問題ないのだけど、昭恵ちゃんの好きの定義とは何なのだろう。聡とは大分違う。あれは獣のようだった。今更思い出しても関係ないのだが、私はなぜ聡に恋をしていたのだろう? もう思い出せない。
昭恵ちゃんの顔を見つめていると欠伸が出た。昭恵ちゃんの寝顔を見るとつい安心してしまう。私はそっと目を閉じる。きっと朝は昭恵ちゃんの用意する朝ご飯の香りで目覚めるんだ。最近はそんなことが本当多くなった。
「昭恵ちゃん大好き」
小さく呟く。恋愛か友愛か、私に判断はつかないけれど、大好きなのは間違いはない。今夜もいい夢を見られるだろう。
夢を見た。即座に夢だと分かった。だって私は小学生になっていたんだもの。公園の砂場で遊ぶのに昭恵ちゃんが一緒にいる。小学生にもなって砂場遊びなんて恥ずかしいよという同級生をよそに昭恵ちゃんは一緒に遊んでくれる。
『お城作ろう!』
幼稚園の頃から愛用のシャベルを手に私は砂のお城をせっせと作り上げる。昭恵ちゃんは、お城が崩れないように壁を素手でペタペタ叩いて固めていた。
優しい昭恵ちゃんの顔を見て、私は少しだけ悲しくなる。
『昭恵ちゃん、私と一緒にいて楽しい? みんなゲームとかしてるのに……』
『楽しいよ。私は眞子ちゃんと一緒にいるのが一番楽しい。そんなの当たり前じゃん』
『昭恵ちゃん……本当大好き』
『えへへ。ありがとう。ねぇ眞子ちゃん、この公園にある都市伝説って知ってる? 素敵なお話があるんだ』
『えーー、何々?』
昭恵ちゃんがそっと耳打ちをしようとする瞬間、私は目覚めた。
予想通りにお味噌汁の香りが鼻をくすぐる。布団から起き上がって、跳ねた髪を撫でる。
「あの公園の都市伝説って何だったっけ?」
確かに昔、昭恵ちゃんから聞いた。その話をワクワクして聞いたのも確かだ。だが内容が思い出せない。何だったっけ?
「眞子ちゃん、起きた? もうご飯できてるから顔洗ってきて」
「はーーい」
まあいいか。いつか思い出せるだろう。忘れているということは、多分重要な話じゃないのだろう。
顔を洗って髪を整えてから昭恵ちゃんと向かい合って朝ご飯を頂く。お茄子のお味噌汁に沢庵に焼鮭に卵焼き。昭恵ちゃんのご飯は相変わらず美味しかった。
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