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その対象物は、遠目で男性だと分かった。彼の周りには大きなフラフープのような輪っかがある。大きな飾り付けがされていて、クルクル回っている。それを男性が中心に立って支えて持っている状態だ。その周囲では、馬の着ぐるみ姿の4人が一緒に回っている。そばの看板には、こう書かれていた。
「ぷぷぷっ。人力・メリーゴーランドだって!」
「子供をおんぶしているぞ」
「うひぇーー?」
馬の着ぐるみの人が、男の子を背負って回り始めた。いっそう、メリーゴーランドに見えてきた。面白そうだから近くまで行くと、それは平田さんだと分かった。
「もっとだよー」
「クルクルー、クルクルー」
「るるる~、木馬が逃げ出した~、メリーゴーランドが~、止まった~」
「わあーい」
「こらー!平田ー!」
「3人じゃ無理だぞ!」
平田さんが歌いながら、輪を抜け出した。木馬の3人と輪っかの中心が叫んでいる。これで仕組みが判明した。大きな輪っかを紐で結んで、それを木馬が持つことで、メリーゴーランドが完成している。残された3人では重そうで、ヨロけていた。計画的な逃亡か?早瀬が笑いながら茶々を入れた。
「3人で持てばいいだろう?」
「そんなー、室長、横暴です」
「問題発言です」
「……今は、プライベートだ」
「キャラクターが違いますよー?」
「室長、協力してくださいよー」
「裕理さん、平田さんが戻って来るまで……」
「だーめ。デート中だ」
「じゃあ、俺が回るよ。面白いし」
木馬が困っているから、持ち上げる要領で紐を手にした。けっこう重くて後悔した。ここで怯んでは、男がすたる。
「ふん、えい、やあ!」
「こら、無理をするな」
「ううん、やる!」
「はいはい。俺が持つよ」
早瀬が紐を持とうとした時、物体が軽くなった。右側に持ち上がったことで振り向いた。そこには、黒いマントを被った人が立っていた。輪っかを、軽々と片手で持ち上げている。
「……これ、持ってもいいですかー?」
「それはもちろん!いいんですか?」
「面白そうなので。これを着ているから、木馬のイメージじゃないけど」
その人は男性であり、ゲラゲラ笑っている。そのノリに安心したようで、メンバーが声をかけあった。もう交代しておけと、早瀬から肩を抱かれて離れた。
「メリーゴーランド~クルクル~」
「ぎゃはははっ、クルクルーー」
「魔法使いのお兄さんも~、クルクルー」
一気に明るくなり、ギャラリーが増えてきた。すると、バンドマンの子が騒ぎ始めて、口々に囁き合っている。佐久弥じゃないか?と。
「佐久弥だろーー!?」
「まさかー?」
「今夜限定のバンドに出るんだぞ」
「ええー?あの、佐久弥さんですかー?」
その問いかけに反応して、男性がフードを取った。みんなが言っている通りの人だった。佐久弥が大笑いをしながら回っていた。
夏のコンテストで会った時には、落ち着いた感じだったのに。桜木さんと似ていると思ったのに。目の前で無邪気に走り回っている人は、まるで別人に見えた。
「裕理さん、佐久弥なの?」
「そうだ。佐久弥だ……」
早瀬が驚いていた。そして、小さく頷いて笑った。肩を抱いている手に力が入り、包み込まれるようにして、背後から抱きつかれた。そして、頭の上に顎を乗せられて、その重みが安心できた。一時間前に呪いが解かれた早瀬が、ヒーローとクランが混ざったような笑顔になっている。
「佐久弥も呪いが解けたか。蔵之介が解いたのか……」
「それは誰?」
「佐久弥の恋人だ。植本さんから聞いた」
「マジで?誤解してたよ!裕理さんのこと、まだ好きかもって」
「好きだろうね。俺はいい男だから」
「バカ。本性を出し過ぎだよ!」
早瀬の腕に噛みついてやった。けっこう本気だ。いつも噛みつかれている仕返しとしてだ。
「いたい、悠人君、こら、やめなさい」
「ヒーロー・ユーリ!いい子マン!我慢しろ!」
「さっきのは冗談だ。そこまで自信過剰じゃない」
「だったら言うな」
「ああもう。可愛げがなくなって来たぞ?」
「知らないよ。佐久弥と一緒にクルクル回って来るからね!」
「……おい、それは」
「都合が悪いわけー?」
早瀬が笑ったから、安心してメリーゴーランドへ向かっていった。輪っかの中心は、マーケティング推進室の人だった。仲間入りをさせてもらうと、佐久弥がいじめっ子の顔になった。
「佐久弥。久しぶりーー!」
「ゆうとくーん、度胸があるんだなー?」
「バーーーカ」
「ゆうとくーん、おままごと婚の片割れが心配しているぞ?」
「平気だよ!誓い合った仲だから」
「ぎゃはははっ、もっと回れよ~」
「わわわっ、みんなのスピードに合わせろよ」
わあわあと言い合って、メリーゴーランドの仲間になった。無邪気な魔法使いと、男らしい騎士が回っている状況だ。あっという間に息が切れてしまい、立ち止まって休んだ。早瀬が迎えに来た後、佐久弥の元へは、大柄な男性がやって来た。蔵之介さんだと早瀬が言っていた。
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