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童歌
こぉとろことろ
どの子をことろ
あの子をことろ
取るなら取ってみろ
こぉとろことろ
子どもたちが通りで遊んでいる声がする。
洗濯物を取り込んでいた七紬は、子供たちが歌う童歌に耳を傾けた。
そこへ木戸が開き、父の源蔵と兄の義臣が風呂敷に包んだ薬箱を抱えて帰ってきた。
「七紬、今帰ったぞ」
「父様、兄上、おかえりなさいませ」
出迎えた七紬に源蔵が、可愛くて仕方がないと言うように笑みを浮かべる。
「うむ。今日は栗山兼房の往診だったのだがな。兼房の奴、そなたを褒めちぎっておったぞ。医学を学ぶ姿勢が良く、なんでも出来ると。なあ、義臣」
兄の義臣も笑顔で応じる。
「はい。私も兄として鼻が高うございました」
「あまりに出来すぎるのも、考えものぞ。父が用無しになる」
ハハハと大声で笑うと、家に入った。
緒方七紬は藩医である緒方源蔵の養子で、源蔵とも義臣とも血の繋がりはなかった。三つの頃に緒方家に養子にやって来た七紬を、緒方家の両親も兄も目に入れても痛くないほど、可愛がり自由に学ばせた。
その恩に報いよう医学の道に進むことを決めた七紬は、父、兄から医学を教わる他、蘭学所を開校している栗山兼房に師事していた。
その栗山兼房は数日前から風邪による咳がひどく、藩医である七紬の父、緒方源蔵が懇意にしている栗山家に往診していたのだった。
「栗山先生のお身体の具合はいかがでしたでしょうか」
心配そうに尋ねる七紬に、源蔵が朗らかに答える。
「なぁに。案ずるな。咳止めを投薬してきたからの。数日で治まるであろう」
源蔵の言葉に安堵した七紬を、義臣が微笑んで見つめる。
兄の視線に気づいた七紬は、微笑みを返して気恥ずかしそうに俯く。
そんな二人の様子を源蔵は満足そうに眺めた。
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