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(早く夜が明けないかなぁ…。)
いつものように冷たい土間にちょこんと正座をして、「ごめんなさい」と土下座を繰り返す。
隣りには大好きなおばあがいて、同じように「許してやってください」と言っては、土間に擦り付けるように何度も何度も頭を下げる。
(おばあは、いつも着物を着てるから足が冷たくないのかな?)
そんな別の事ばかり気にしながら、夜通しのこんな状況をやり過ごすのが常になっていた。
そうする事で、心のブレーカーを落とさずに済む。
子どもながらの防衛策。
物心ついた時から、2〜3日毎飽きずに繰り返されてきたこの行事も、中学生くらいになればある程度の大人の事情というものが理解できるようになる。
いわゆるこれは、夫婦喧嘩という類のものだった。
真夜中皆が寝静まった頃、隣の屋敷の玄関扉を叩きつける乱暴な開閉音が響き渡ると、それが開幕のゴングである。
相手を罵る怒声、それに呼応するように泣き叫びながらも口答えするヒステリックな声。
殴りつける音、何か物が倒れぶつかるような音や布を引き裂くような様々な音が、怒声に混じって耳に突き刺さる。
(鬼が暴れている!)
慌てて近所のお巡りさんのところに慌てて駆け込んだこともあったけれど。
「ああ、あの夫婦ね」
お巡りさんはそうひとりごちて、私には心配ないから家に帰って早く寝なさいと命令してくるのだ。
子どもで口下手な私は、それ以上の言葉を持たなかった。
俯いたまま、唇をギュッと血が出るほどに噛んで涙を堪えたままそこで動かずにいるのが精一杯。
それでも警察は、来てくれなかった。
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