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「日本の法律ではね、結婚は、男の人と女の人でなければできないの。汐里は、“友達として”薫子ちゃんのことが好きなだけよね?女の子同士では、夫婦にはなれないの。きっと薫子ちゃんも勘違いしちゃってるんだと思うわ。だから、夫婦にはなれないって、ちゃんと汐里から教えてあげないとね。汐里は、別に男の子より女の子が好きって、そういうわけではないでしょう?」
「男の子より?よくわかんないよ。だってしおり、幼稚園のクラスの子はみーんなともだちだもん。みんな大好きだよ?でも、さくらこちゃんが一番好き!一番一緒にいたい!男の子とか、女の子とかじゃなくて、さくらこちゃんが好きなんだよ?」
「でもね、あのね。女の子は、男の子と恋愛をするのが普通だから。だから、結婚も男の子と女の子じゃないとできなくてね……」
「どうして、女の子と男の子で恋愛をするのがふつうなの?男の子と男の子、女の子と女の子じゃだめなの?」
「それだと、子供ができないでしょう?家族になれないじゃない」
「なんで?こどもをつくってない、男の人と女の人のふうふもたくさんいるんだよね?だったら、こどもって、ぜったい作らなきゃいけないものじゃないよね?作らない人がいてもいいよね?こどもがいないと、かぞくになれないの?」
「そうじゃないけど……でも、変だって思われるのよ?女の子同士で夫婦になりたいなんて言ったら。だから、汐里も……」
「どうしてへんなの?しおり、だれかにへんって言われても気にしないよ。さくらこちゃんが幸せならそれでいいよ」
「だからねっ……」
ああ言えばこう言う。段々と、私もイライラしてきてしまった。
どうしてわかってくれないのだろう。女の子は、男の子としか恋愛をしてはいけない。そうじゃないとみんなにおかしいと思われる。今の汐里は親友に告白されてその気になって勘違いしてしまっているだけ。女の子に恋愛感情を持つ、レズビアンなんかじゃない。だから私の言うことを聞いてほしいし、安心させてほしい。汐里が良くても自分達は迷惑なのだ――。
と、私が言いたいのはただそれだけなのに、余計な質問ばかりして娘はちっともわかってくれない。他の子よりも聡明で、空気が読める子だとばかり思っていたのに。
「汐里は勘違いしてるの!薫子ちゃんは女の子なんだから、本気で恋愛なんてしたいと思ってないのに誤解してるの!二人は夫婦なんかになれないし、汐里が女の子が好きだなんてみんなに知られたらママがすごく恥ずかしいの!だからやめてほしいって言ってるのに、どうしてわかってくれないの!?」
気づけば、矢継ぎ早に捲し立てていた。汐里はしばしぽかん、として――次の瞬間、わああ、と泣きだしてしまった。
「ママ、ママなんで怒ってるの?しおりわるいことした?しおりわかんない!ママこわい、こわい!なんでいけないの、さくらこちゃんが好きでなんでいけないの?わかんない、わかんないよお!うわああああああああん!」
ああ、どうしてこんなことになってしまうんだろう。私は苛立ちのまま、スプーンを握りしめたのだった。
せっかく娘が大好きなカレーを作ってあげたのに。せっかく楽しい夕食だったのに――何もかも台無しだ。
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