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序
長きに渡り、その雪嶺は生命の息吹を拒み続けてきた。
氷の中で眠る美しい主を、愚かな人間から護るために。
ゆえに今日は歴史が動き出す日だ。
旧くも強い魔力で造り上げられた氷塊に掌を当て、指先に通う血を熱せば、たちまち炎が広がっていく。ただでさえ見通しの悪い視界に白煙が立ち込めたが、融けた氷から現れた影を見逃すほどではない。両腕を伸ばし、やわらかなその重みを抱きとめる。
雪白の肌に長い銀髪、華奢な肉体。
姿形は年若い少女でしかなくとも、これこそが未来の光となる──
「……水の守護神。不束者ですが、どうぞよろしく」
直後、殿下、と叫び声があがった。
──水の矛に変貌した少女の髪筋が、左胸に突き立っていた。
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