異種接近遭遇 Part1

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異種接近遭遇 Part1

疲れた。もういいや。何も考えたくない。 アパートの外灯が付いたり消えたりしているのも、どうでもいい。ただ、寒い。 ごそごそとバッグのなかの家鍵をあさってると、背後に人の気配がした。 「コンバンわ」 振り向けば、黄褐色の肌をした彫りの深い顔立ちの若い男。 職業柄、すぐに愛想笑いが浮かんだ。 「今晩は。寒いですね」 意味のない形だけの挨拶(あいさつ)だけど、相手は律儀に会話をつないでくる。 「寒いデスね。ココはいつもこんな寒いデスか?」 「あー、年々変わってきてますかね。じゃあ……」 「良カッタら、ドウゾ」 片言で差し出された、缶に入ったコーン入りのポタージュスープ。……んん? 「えーと」 「あったまりマスよ」 にっこり微笑まれても、正直困る。困るが。 「ありがとう、ございます」 手袋越しに受け取った缶は、それほど熱くない。これ、飲んだらヌルいやつじゃん。 ──隣人。挨拶交わすだけ。接点なし。 とはいえ、いらんこと言って波風立てるのは、性に合わない。 「イィえー。お休みナサイ」 良い事をした、という達成感丸出しの満面の笑み。片手を上げて、自分の部屋(いえ)に入って行くイケメン異国人。 ……うん。とりあえず、害はない。 害はないけど……メンドいな、近所付き合い。
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