やっぱり君には会えません

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   *  リクは高校一年生のころ同じクラスで、一緒に昼飯を食うメンバーのひとりだった。  といっても特別仲がいいわけではなくて、ふたりきりで遊ぶようなことはなかった。俺にとってのリクは〝親しい仲間のうちのひとり〟くらいのテンションで、高校を卒業すると自然な流れで連絡は取らなくなった。 〝俺、東京で就職して一旗あげたいな〟  当時、リクはよくそんなことを言っていた気がする。  彼はなんとなく野心化の匂いがしていた。  東京という場所に随分と夢を見ているようだった。そのころ俺たちが住んでいたのは群馬寄りの埼玉だったけれど、休日に都内へ遊びにいくのは容易だったのもあり、俺はそこまで東京という場所に憧れを持ってはいなかった。 〝へぇ。リク、いつか地元離れるのか。なんか寂しいな〟 〝ヒロトは実家の会社継ぐんだろ? いいじゃん、俺はそっちのほうが羨ましいよ〟 〝いや、会社は兄貴が継ぐんだって。俺も社員になることはできるかもしれないけど、建築の仕事にあんまり興味ないから〟 〝えー、もったいないな。入社すれば将来安泰だろ?〟  リクは名声やお金に関心があるように見えた。一度だけみんなでうちに遊びにきたときも、「俺も将来こんな家に住むぞぉ」と息巻いていた。  とはいえ高校一年生の俺たちは将来の話をする機会は少なく、やることといえば流行っている動画を見て笑ったり、ゲームをするだけだった。高校を卒業をしてからリクは、今日までどんな生き方をしてきたのだろうか。  チャットを無視したままスマホをソファに放り投げ、作りかけのカレーを火にかけた。  飯を食い、皿を洗い、風呂に入る。寝着に着替え、どうしたらいいのかわからずリビングの真ん中に座り、人生はじめての瞑想なんかをしてみた。  そしてようやくスマホを手に取る。  リクが霊感商法に染まったなんて思いたくはない。  でも心のどこかで、俺はリクを疑っていた。  
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