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〈話は変わるけど、リク、壺って興味ある?〉
震える指先で切り出した。
頭の中に、実家にある十二個の壺を思い浮かべていた。
〈親父が〝運気上がる〟って言われて壺を買ったんだけどさ、買った途端にうちの会社売り上げ爆上げして、今すごい乗りに乗ってるんだよね。リク、これから東京出てくるんならこの壺必要かなって思って。親父ももう売り上げに満足したから、安値で誰かに受け渡そうかなって言ってるんだよね〉
そっちが霊感商法なら、こっちも霊感商法で対抗だ。
いかにも怪しい話をすれば、向こうもドン引きして会うのをやめてくれるかもしれない。そして運がよければ壺を売りつけて、親父のマイナス分、千二百万をペイできるかもしれない。
いや、さすがに元友達にそんなことできないし、そもそも犯罪だから無理か。
どきどきしながら反応を待っていると、リクは秒で返信してきた。
〈運気が上がる、かぁー。そういう話、すげぇ興味ある!〉
だろうね。
君もそういうモノを取り扱ってるんだもんね。
〈その壺、今どこにあるの? 見せてくんない? 売り上げ増えた話も詳しく聞きたい! 説得力があるなら買いたいかも〜〉
……そう来たか。
カウンターを食らって思わず沈黙した。
リクは、どんな形でもいいから俺に会うつもりのようだ。実家の壺を見せたとして、なんやかんやでリクは買わず、逆に俺が壺を買わされる未来が見える。そこに親父がいたなら親父が買わされるかもしれない。リクにとってはむしろ、俺より親父のほうが壺を売るターゲットとしては最適だろう。
もう無理です。
降参です。
〈うん……そのうちね。腰と、足と、胃と、腎臓が落ち着いたら連絡するね……〉
〈わかった! 俺もまた連絡するー!〉
チャットを終えると、俺はそっとリクをブロックした。
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