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「今度は何を賭けてやがる」 看守のニコルソンが、机の上に広げられたタバコの1本を取り上げて尋ねる。5人の囚人が、それぞれが所持していたタバコを並べ出した様子を監視カメラで見てやって来たのだ。 「今夜のサッカーの勝敗に決まってんだろ」 囚人の1人が答える。 「没収される前に今すぐ片付けろ」 「………」 「片付けろ」 「あんたはどっちが勝つと思う?」 別の囚人が問うと、ニコルソンは目の前のアフリカ系の囚人を見やりながら、ガムを吐き捨てるように言った。 「清らかで気高いほうだ」 「あんた、そんなのくせに、こんな吹き溜まりで働くのはさぞかし苦痛だろうな」 「いいや。そういう吹き溜まりの奴らを管理できるんだ、天職だよ。早くしまえ。5秒以内に」 すると【M】はニコルソンをチラリと見やって戯けた顔で片眉を上げた。小さくため息をつき、タバコを新聞紙で包んで、机の隅に寄せる。 「M、お前の発案か?」 「いいえ」 「誰が言い出した?」 「総意です」 「総意?」 「ええ」 「ナメた発言はよせ」 「仲間が集まれば、誰ともなしに賭け事をしようとなるでしょう。そういう意味です」 「M。お前らは仲間じゃない。それからここはパブでもない。立て」 Mが立ち上がると、ニコルソンは「ついて来い」と言い、自分よりも大柄なミネの右腕をつかんだ。 「次ここでくだらないことをしたら煙草の差し入れを一切禁止とするからな」 そう言い残し、彼を連れて行った。 「……チッ、なんでェあの野郎。ヒラのクセに何の権限があるっつーんだ」 「イラついてんだろ。溜まってんだ」 「ライアン、お前の出番だ。慰めてやれよ。そうすりゃ少しはご機嫌もよくなる」 ライアンは椅子の上で膝をかかえぼんやりと壁にもたれかかっていたが、冷やかされるとクスクスと笑いながら「やーだよ、僕はね、今そんなことできないカラダなんだから」と言った。 するとライアン以外の3人が目配せしてうなずきあい、ひとりが「ああそうだな、そういやお前は大事な時期だった」と返した。 「……ところでMはどこに?」 「そりゃあ、しゃぶらされに監視カメラの見えねえところさ」 「看守長んトコだろ。仮釈放が近い。いろいろとあんのさ」 「そんな大事なときに賭け事なんかよくやるなあ」 「そんなことくらいで仮釈放に支障が出る奴じゃない。ニコルソンをぶん殴ったって口頭注意で済むだろうな。」 「Mは優等生だもんねー」 ライアンが子どものように首をかしげながら笑った。
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