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「まったく。もう少し傷が深かったらまた病院コースだったからね」
「はーい……」
包帯でつつまれた右手をさすりながら、何となくしょぼっとした気持ちで保険医に返事をした。怪我らしい怪我をしたのが久しぶりなのと、ピンクが横で痛そう痛そうと騒ぐせいで余計に痛みが増している気がする。
「優ちゃんったらドジっ子さんだなぁ!疲れたしベッドいこ、いいよねせんせ?」
「かまわないよ」
なーに勝手に決めてんだコイツは。でも確かにつかれた、寝てぇ。
クソピンクに腕を引かれるがままに隣にあるベッドが並んだ部屋に連行され、一番奥のベッドに突き飛ばされた。おっ、ふかふかで最高。
「優ちゃんねむそぉ、んふふっ」
「これ今寝ていい時間?まじで眠いかも」
「ほんっとこの手のことに警戒心薄いね〜」
ピンク野郎は何やらよく分からないことを言って、なぜか横たわった俺の体に跨って座ってきた。
「重いっす。てか靴脱いでねぇや、どけ」
「重くないもんっ、僕五十キロくらいだからね!」
「かるっ……」
あれ、俺今何キロだっけ?背はこいつより結構高いけど、それにしては体重差が……。まだデブじゃないよな俺、最近お菓子食べすぎてるけど大丈夫だよな。
「もう、デリカシーのない子にはこうだぞっ!」
「へっ? っや、あっははは!やめっ、んはははっ!」
突然の脇腹くすぐり攻撃に一瞬して目が覚める。これ弱いんだよ、勘弁してくれ!
のしかかられているからすぐに抜け出せないし、かといって抵抗しすぎたら小柄な体に怪我を負わせそうで上手く対応できない。ゴリラみたいな奴だったらすぐにでもぶっ飛ばしてたのに。
「わわっ、脇腹弱いの?かわいっ!」
「んっはは!やば、ひっ、とめ、あははははっ!」
「この後お願い聞いてくれるなら止めたげる〜」
「はっ、きく、からっ!ひっ、ははは!!」
「わーい、言質とった」
蠢いていた手はようやく脇腹から離れ、俺はゼーゼーと息をする。死ぬかと思った。こんだけ騒いだのになんで保険医見にこねぇんだよ
顔を歪めて息を整えていると、先輩はにこ〜っとした顔で口を開いた。
「僕のお願いね、優ちゃんのこと抱きたいなぁ」
「あー、なるほど。…………は?」
なんかデジャブな展開。コイツまさか本気で言ってねぇよな。
「ぽかんとしてかわい〜。ね、いいでしょ?」
「俺穴あけられんの?無理無理」
胸の前で手をバツの形にして全否定。そもそも会長にしろコイツにしろもっと相手選べっつの。イケメンばっか相手にしてると俺みたいなのも気分転換にちょっかいだしたくなるんかねぇ。
渋い顔の俺を見て先輩は不思議そうに首をかしげた。
「穴あけるってふしぎな表現だね。優ちゃんって処女でしょっ?」
「は?男だぞ俺は」
「そうだけどぉ!おしり使ったことないよね?」
「しり?」
眉間にシワがよる。なんでここでケツの話になるんだ。どういう流れだ。
先輩は驚いたように目を丸くしパチパチと瞬きする。
「もしかして知らない?」
「はぁ?」
「男同士のセックスはおしりの穴使うの」
「……え、マジ?エグ」
斗亜には知らないことをバレるな、なんてシェパード先輩が言っていたのも忘れて素直な反応をしてしまった。
だって怖くね?汚いし痛いだけに決まってんだろ。
想像してゾッとしていると、先輩は俺の手のひらの傷口を不意に押してきた。
「いてぇよ」
「ははっ、いい反応。なかなか動じないねぇ」
あれ、また雰囲気変わってんだけど。どうしたぶりっ子。キャラ貫けや。
内心手の痛みに冷や汗をかいていると、先輩は俺の手を掴みながらいつもと違う低い声で言った。
「無知な処女とかドストライク。元々食堂で苦しんでた顔が好みだったんだよな」
「…………は?」
「僕、お前みたいなやつを痛めつけて開発すんの好きなんだよね」
いた、痛め??炒める??痛いの方???え、何言ってんのこのピンクさん。は?????
「その顔かわい」
混乱する俺をよそに、先輩は心底楽しそうにニヤリと笑った。
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