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前生徒会長・玉萌さんの昔馴染み
しばらくの間、玉萌さんはぼんやりと円窓から庭を眺めていた。
垂れ込める夜は、あっという間にお気に入りの日本庭園の風景を吞み込んでいく。
硝子に映し出された自分の顔が闇の中に浮かび上がる。
その顔はひどく淋しそうで、置いてけぼりにされた子供の顔のように見えた。
静寂がつま先からせり上がってきて心を冷やす。
冬がこんなにも淋しいものだなんて知らなかった。
人間社会に紛れ込んで十年近くの時が流れた。
眠れない夜みたいに長かった気もするし、心待ちにしていた花火大会のように短かった気もする。
九尾としての生き方を歩み始めてから、玉萌さんは初めて友達というものを真実の温もりをもって実感していた。
これまでの人生をずっと一人で過ごしてきたわけではない。むしろ、幼い頃から人形のように可愛く、渓流のごとく聡明だった彼女は常に黒だかりの人に囲まれてきた。
彼ら人間の存在は、玉萌さんに上手く人間社会に溶け込めているという安心感を与えたし、浴びせるような注目と好意は彼女の自尊心をくすぐった。しかし同時にそれらは彼女に緊張を強いてきた。失敗ができない。ミスができない。ましてや九尾だということが露見しようものなら……。
時間とともに夕暮れの影が長く伸びるように不安と恐怖が、彼女の足下には常について回った。そして、日が沈み夜が訪れるように、いつの日か暗闇に囚われてしまうのではないかと戦慄するときもあった。
千明に自らの口で九尾だという真相を伝えてしまったとき、はたして夜が来てしまったと絶望した。
恐怖を感じるよりも、ただただぼんやりと心もとなかった。
明日からの自分はどうなるのだろう。
狐界からはどのような蔑視と処罰が下るのだろう。
世界が足元からぐらりと揺らいで、暗がりが肌を浸した。
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