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そのメールが届いたのは、日付が変わってすぐのことだった。
『明日 瀬上総合病院 303号室』
簡潔な単語を並べただけの文面。
差出人のアドレスは意味のない文字と数字の羅列。
痕跡を残さないやり方に、じわりと相手の意図が滲む。
くそ
やってやろうじゃねえか…
俺は忌々しいその画面を睨み付けた。
ここまで来たら後には退けない。
『殺し屋求む 初心者大歓迎』
人を食ったような闇バイトの求人に、DMを送ったのはつい先日のことだ。
報酬は三千万。
金に困っていた俺はすぐさま飛び付いた。初心者でもいいと言うなら、俺だって立派に条件に当てはまる。
しかし、これだけではどうやってコトを為せばいいのかわからない。
…まあいい まだ2日ある
次の指示を待とう
俺はため息をついて、スマホをベッドに放った。
灰皿の脇にある煙草の箱を無造作に掴み、一本を取り出して火をつけた。
一度禁煙したが、悪癖は断ち切れない。
自分の意思の弱さに腹も立つが、もう俺に残されたものは何もない。
でなければこんな馬鹿げた求人にすがるものか。
ジーンズのポケットにねじ込んだままのスキットルに、まだ残量があることを思い出した。昔アウトドアに凝っていた頃の名残だ。
ウイスキーをあおり、息をつく。
また眠れない夜が始まる。
でもそれもあと少しの辛抱だ。
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