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「まあ、ゆったりゆっくりと寛いでもらうのには丁度いいかもしれないですけどね」
「そ、そうですか……なるほど」
わたしは納得しきれていないけれどこのカフェ食堂はたしかに居心地がいいからねと思った。
「真歌さんは何か悩みでもあるのでしょうかね?」
高男さんの海のように澄んだ目がわたしをじっと見ている。この目に見つめられると何でも話してしまいそうになる。
「悩みと言うか派遣先が倒産して失業してしまいました」
「倒産で失業ですか……それは困ってしまいますね」
高男さんは気の毒そうに眉を寄せた。
「はい、まさかの倒産で失業したのでどうしたらいいのか状態です」
わたしは、藤本さんからの電話を思い出ししょぼんとした。もう思い出すだけで泥沼に突き落とされようにズーンと気持ちが沈む。
「だったらここで働けばいいじゃな~い」
ムササビがにぱにぱと笑い言った。
「えっ!? ここで働く!」
「おっ! ここで働いてもらう」
わたしと高男さんの声が揃う。
「うん、そうだよ。このカフェ食堂お客さん少ないけど店員も少ないもん」
ムササビはふふんと笑った。
「それもそうだね。どうです、真歌さんこのカフェ食堂で働いてみませんか?」
高男さんは納得したように手をポンと打つ。
「えっ! この妖しげなカフェ食堂で! あ、いえこのカフェ食堂で働かせてもらえるんですか?」
わたしは高男さんとムササビの顔を交互に見る。
「はい、真歌さんが良ければ」
「真歌ちゃん一緒に働こうよ~」
高男さんとムササビは両手を大きく広げた。わっ! ムササビの指はよく見ると四本だ。そうだ、高尾の図鑑でムササビの前足は四本だと書いてあったとそんなことをぼんやりと思い出した。
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