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彩都side
「んん…」
意識が浮上して、ゆっくり上半身を起こす。
「なんで寝て…?」
寝惚けた頭で今の状況を整理しようと、記憶を引き摺り出すようにして思い出そうとする。
そして蘇る様々なゆうとの“あのこと”。
「うあああああああっ!!」
顔を両手で隠してその場にベッドの上で悶える。
あんな痴態を見せてしまった。そしてあんな声まで…。
そう呻いていると、ドタドタと慌ただしい足音が聞こえて、すぐにガチャッと勢いよく扉が開かれた。
「あやっ!」
焦燥感を滲ませて入ってきたのはゆうだった。
すぐ駆け寄ってきたかと思えば、その場で土下座をした。
ガンッと鈍い音を立てて頭が床に激突する。
見事な流れ技に頭が追いつかないが、すぐに我に帰った。
「ちょっ…、ゆう!?」
「ごめん…っ、あや!」
慌てる俺の言葉を遮るようにして放たれた謝罪。一瞬理解できなかったが、数秒で“あのこと”だと気付く。
「こんなことして、許されるとは思ってない。嫌われるのも覚悟の内だよ」
顔を上げずに一人で完結して、何故か俺が怒っているという勘違いまで起こした幼馴染に呆れてしまう。
「顔上げてよ。…寂しいじゃん」
眉を下げて呟くと、ゆうはゆっくり顔を上げる。
その顔は涙が浮かんでいて、捨てられる子犬のような目をしていた。
思わず笑うと、ゆうが困惑したように俺の名を呼ぶ。
俺はベッドから降りて、ゆうの前にしゃがむ。
「俺は怒ってないよ」
できるだけ優しく、〈アヤメ〉で感動ソングを歌う時を心掛けて言葉を紡ぐと、ゆうは目を見開いた。
「でも俺っ、あやに酷いこと…!」
茶色の瞳が涙で濡れて、カーテンの隙間から漏れる光に反射する。明るく輝くアンバーの瞳から溢れ出る涙を、指でそっと掬う。
両頬を手で優しく包んで、目をしっかり合わせて言葉一つ一つに心を込める。
「大丈夫。俺、嫌じゃなかったよ」
そう告げると、ゆうが「…ぇ?」と小さく声を上げた。そして言い間違いに気付いてすぐさま「あ、えと、そういうことじゃなくて」と言い直す。
「ゆうになら、されても嫌じゃないってこと」
微笑んで言うと、ゆうは目を見開く。涙は乾いていて、柔らかな茶色がこちらをじっと見つめる。
きょとんとした目が居た堪れなくて、視線を逸らしながら、ほんの少しの本音を呟く。
「な、なんか……、気持ちよかったし…」
頬を赤らめると、言い切る前に抱えられて、ベッドに二人で倒れ込む。
「あや、あや…っ!!」
ぎゅーっと抱き締められて、離すまいと足も絡まれた。
耳と尻尾の幻覚が見える。尻尾がぶんぶんと嬉しそうに振り回されている。
「ちょ…、あはは!」
可笑しくて吹き出すように笑うと、ゆうはえへ、と口元を緩めた。
「ねぇねぇ、あや〜」
すりすりと肩に顎を置いて頬擦りをしてくるゆうに「んー?」と曖昧な返事をする。
「印、つけていい?」
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