蟲、蠢きて

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「もし、地も空も、海も川も湖も、至る所で蟲が蠢いていたのなら、世も末、という言葉が似合うのだろうか?少なくとも私にはそうは思えない」 「思わないのかよ!」 「先生、蟲好きだもんね…」 「特に趣味の悪いやつな」 「先生が飼ってる蟲って基本キモいもんね…」 「「分かる〜」」  …可愛いのに。 「えぇっ?可愛いのに…」 「先生に共感できるのはお前だけだって、篠原」 「「そうそう」」 「皆、酷くないか?私の可愛い可愛い蟲達を侮辱して」 「「「「可愛くないもん」」」」 「「…可愛いのに」」 「じゃあ中条、具体的にどんな蟲が可愛くないというんだ!」 「体に蜜を溜める蟻。先生が蜜の部分を飲ませてきたせいだぞ…」 「誰が飲むかジャンケンだ!と言って勝ったからだろう。それに、美味しかっただろう?」 「そもそもなんで勝者に飲ませた(罰ゲームさせた)んだよ…。それに、俺吐いただろ」 「あぁ、そういえばそうだった。勿体無かったよな…」 「「「「それはおかしい」」」」 「私だって飲みたかったんだぞ」 「中条君が勝ったから仕方なく譲ったのに…」 「篠原………飲みたかったのか?」 「もちろん!」 「言ったら譲ったのに…」  そろそろか…。 「そろそろ歴史的実験を始めるぞ。例のDNAの部分でGをCにしたら従来の1.2倍くらいのデカさになったってのは勿論覚えているな?」 「昨日だぞ?」 「で、それを踏まえてだが…今日はアシダカグモを3倍くらいにしようと思う」 「「待ってました〜」」 「じゃあこのトレーに液を入れて、30分ほどアシダカグモに浸かって貰おう」 「いきますよ…」 「頼んだ、篠原」 「はい!」  ゴクリ…。はてさてどうなるのか、楽しみで仕方がない。  前回は、30分のうち最後の1分で脱皮が完了し、一気に大きくなったが…おっ?まだ20分も経ってないぞ? 「も、もうすぐ脱皮が完了します!」  いくらなんでも速すぎる…1.2倍の脱皮を6回繰り返すくらいの予定だったのにな…。私の計算違いか? 「脱皮しました…?」 「また脱皮を始めたな」  一回で2倍ほどになったな…20cm弱ありそうだ。  ……………2の6乗倍とかにはならないよな? *********************** 「先生、この脱皮で終了するんですよね?」 「あぁ、私の計算が正しければ、脱皮はこれで終わる。この脱皮で3mにまでデカくなりそうなのは計算違いだがな」 「この脱皮ももうすぐ終わりそうです!」  あぁ、嗚呼、ドキドキする。鼓動が高鳴る。大好きなアシダカグモを、抱きしめたい。 「脱皮完了しました!」 「…体長3mほどありそうですね」 「まさに歴史的実験ですね」  我が愛しき蟲よ…。アシダカグモの益子(えきこ)ちゃんよ…。 「先生?近づくと危なくないですか?」 「おい、先生!」 「「大丈夫なの〜?」」 「益子ちゃ〜nっ…」  最後に見えたのは、影を落とす茶色のすらっとした脚が迫る様と、あの液が入った瓶が脚に蹴られ、蟲達を飼っている部屋に飛んでいく様だった。
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