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16話 素直なキモチ
「寒……」
俺は二の腕をさすり身震いをした。
秋の訪れを感じ始めるこの季節、日中は暖かいけれど夜はそれなりに冷える。勢いで自宅を飛び出してしまった俺は、半袖短パンの寝間着姿だ。せめて上着を羽織ってくるべきであったと今更ながら後悔した。
震えながら夜道を歩き、やがて社員寮の敷地内へと足を踏み入れた。もう深夜に近いこの時間、寮の周囲に人影はない。建物の玄関口や、多くの寮部屋の灯りも落とされていて、鈴虫の鳴き声だけがにぎやかだ。
「最悪。俺、スマホ持ってないじゃん……」
寮の玄関口に立ち、俺はガックリと肩を落とした。
社員寮に立ち入るためには、会社から支給される専用のIDカードが必要になる。もう寮生ではない俺が社員寮に立ち入るためには、内側からドアを開けてもらうしか方法がない。
しかしスマホがなくては律希に来訪を伝えることができない。多くの住人が寝静まっているこの時間、運よく玄関を通りかかる人がいるとも思えない。
俺は建物の周囲を植え込みに沿って歩き始めた。傍から見れば完全な不審者だが、この際仕方がない。建物の中に入れないのなら、建物に入らず会話をするしか方法はないのだ。
幸いにも律希の寮部屋は一階。窓を叩き律希を起こせば、話をすることは可能なはずだ。
植え込みを歩きながら、ひとつひとつ慎重に窓の内側を覗き込んでいた俺は、やがて律希の部屋を見つけた。安っぽいパイプベッドの上に、身体を丸めて眠る律希の姿。
俺はこぶしを持ち上げ、部屋の窓を静かに叩く。他の住人を起こさないように。
「律希、律希」
律希の身体がもぞりと動いた。
***
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