先輩

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先輩

 会社で学生の時の様に先輩と呼ばれることがある。  まぁ、呼んでくるのは一人だけだけれど。  他の子は苗字で大森さん。と呼ぶ。  名前で呼んでくるのは後輩の桃子ちゃんだけだ。 「さくら先輩。部長がお呼びですよ~。」  デスクの後ろから桃子ちゃんが私にそっと声をかけてきた。 「はい。ありがとう。桃子ちゃん。今日もお昼は一緒に食べる?」 「えぇ。もちろん。先輩はいつも通りお弁当ですか?私今日はちょっと買いに出るんですけど。」 「あぁ。だったら、多めに作ってきたから一緒に食べようか。食べ終わって足りない様ならデザート買いに行こう。」  会社は結構大きなビルに入っているので、ビル内にコンビニがあるが、お昼の開始時間はとても混んでいる。食べ終わる頃だったら少しは空いているだろう。  私は大森さくら。37歳。  桃子ちゃんは斉藤桃子。22歳。大学を出たての新卒だ。  私は大学を出てからこの会社に勤めてもう15年のお局的存在。  結婚をする気はない。過去に手痛い失恋を経験してちょっぴり臆病にもなっているから。  男なんて信用できない。自分の人生は自分で守るのだ。  両親もまだ二人共仕事をしているし、介護はいつ来るのか分からないが、それに備えて、貯金もしっかりとしている。  一切男性社員との噂もない、恋人がいる風でもない、そんな私を、後から入ってきた女性社員たちは「痛い」と思っているようで仲良くなった後輩社員はこれまでいなかった。  ところが、今年入ってきた新卒の桃子ちゃんは何かにつけ、私を頼ってきた。  私も普段だったらうっとうしいと思うような行動をする、この15歳差の後輩が可愛くて、ついつい休憩時間はこの子と過ごすようになっている。  お昼ご飯も、桃子ちゃんは自分で作るのは苦手らしく、大学卒業と同時に一人暮らしを始めたので、お昼も買いに行くことが多い。  そこで、最近は少し多めにお弁当を作り、一緒に食べる事が多いのだ。  その日もようやくお昼休みになった。 「このところ、いつもすみません。さくら先輩のお弁当、とっても美味しいです。」 「お口に有って良かった。自己流だけど、もう一人暮らしも長いからね。それに一人分作るより、二人分作った方が種類も一品多く作れるし、手間は一緒だしね。」 「お弁当代払いますよぉ。あ、もしくはデザート奢らせてください。」 「そんなこといいのよ。新卒のあなたからお金取れるわけないでしょう?それに、私、桃子ちゃんといるのがすごく楽しいからね。そのお礼。」 「ん。。ありがとうございます。お言葉に甘えちゃいます。お弁当も作り方覚えます。」  さくらは、ちょっと余計なお世話かな。とも思ったが、桃子の借りているワンルームが自分のマンションと近いことを知っていたので、提案してみた。 「よかったら、お休みの日にお料理教えようか?良ければ私の家でも、桃子ちゃんの家でも。  あ、でも、さすがにお休みの日はデートとかあるわよねぇ。」 「今はお付き合いしている人もいないので、さくら先輩さえ良いのでしたら是非にでも!」  思いもかけない勢いで食いついてきた。  そんな調子だったので、次の休日にさっそく、さくらの家で桃子に料理を教えることになった。    
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