咲耶です。バンドはじめました

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* * * 「どう?」  咲耶(さくや)が尋ねると、シャオランが神妙な面持ちで首を横に振る。 「うっ」  そのとき、隣にいたネムが苦しみ始めた。 「ネム! 大丈夫!?」  咲耶は必死で彼女の体をゆすったが、ネムは俯いたまま応答しない。   「そ、そんな……こんなの誰も望んでないよ! ねぇ! なんとか言ってよ! 返事してくれないと分からない! ネム!! ネ」 「何やっとんじゃこらぁー!!」  そのとき怒号が響き渡る。顔を上げると、茹で蛸のように真っ赤な顔で迫ってくるコンガ先生の姿があった。 「勝手に商品食べないー!」  彼は咲耶たちが所持していた『ハバネロ抹茶プリン』を没収した。すると、今まで俯いたまま動かなかったネムがようやく顔を上げた。 「これまじないっすわー。名前に釣られて、どんな味なのか食べてみたけど……うん、なしよりのなしっす」 「てかさ、不味くない? ふつーに」 「うん、ふつーに不味い」  咲耶たちの文句は止まらない。  ここはとあるコンビニの、スタッフ控え室。コンガ先生は世を忍ぶためにコンビニの店長をしており、業務の合間を縫って咲耶たちに忍術の授業をしている。いまはちょうど休憩中で、近くに置いてあったプリンを拝借したのだが……これがまさかのゲキまずだったというわけだ。 「そんなこと言うなよー。今月発売の目玉商品だぞ? 君たちみたいな若い世代をターゲットにしてるんだから」 「えっ、先生本気で言ってる? てか、食べたの? 食べてみ? めっちゃまずいから」 「クソまずいっすよ」 「うん、ゲロまず」 「女の子がクソとかゲロとか言わない」  急かされたコンガ先生は持っていたハバネロ抹茶プリンを口に含んだ。もぐもぐとゆっくり味わった後、そばにあったミネラルウォーターに手を伸ばす。一口、二口……ついには500mlペットボトル一本を空けてしまった。 「よしっ、じゃあ授業再開します」  こうして、プリンはなかったことになった。
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