プロローグ:人生を変えたひとつの事件

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プロローグ:人生を変えたひとつの事件

 平成22年、秋。 紅葉も美しい栃木県のとある町で、人々の記憶に大きな爪痕を残した大事件が起こった。 県北・県西およそ7か所で発見された、少女の遺体。 栃木県警はそれぞれを別個の事件として捜査していたが、被害者の年齢や特徴などが似通っていることから、連続殺人・死体遺棄事件と断定した。 被害に遭ったのは、中学生女児7名。 それぞれに面識はなく、通っている中学校も2人を除き違っていた。 被害者は無作為に犯人に選ばれ、殺害されたとみられている。 しかし、犯行に関しては入念に準備されていたとみられ、殺害に使われた凶器、そして殺害場所に関しては、犯人逮捕のその時まで一切明らかにされなかった。 遺体発見現場には、痕跡らしい痕跡は何一つ残されておらず、捜査は難航を極めた。 遺体は落ち葉や土砂で巧妙に隠され、発見までの間に降った雨によって、痕跡らしいものは全て洗い流されてしまっていた。 衣服の乱れや犯人の体液等の付着も一切なく、犯人はただ少女を殺すことを目的にしていた。 7名もの若い命を奪った凶悪事件。 しかしなかなか犯人が逮捕できない。 世間の目は警察に冷たく、年を追うごとに警察への批判は高まった。 『無能な栃木県警』 『捜査を諦めた』 など、辛辣な言葉が飛び交う中……。 平成25年、同じく秋。 1本の通報により、1人の男が逮捕されることになる。 46歳会社員・雨宮 東吾(あめみや とうご)。 ごく平凡かつ温和な会社員が逮捕されたのであった。 雨宮の関係者は、皆口々にこう言った。 「まさか、雨宮さんが犯人だったとは」 それほどまでに人柄の良い、人格者であったのだ。 会社でも課長を務め、部下からの信頼も厚かった。 そして、家族も持っており、妻と娘の3人で、お洒落なマイホームを構え幸せに暮らしていたのだ。 こうして、栃木県全域を恐怖と不安で包み込んだ事件は、3年もの年月をかけてようやく解決をしたのであった。 雨宮は家族に内緒で1台、車を購入しており、その社内からはたくさんの血液反応と凶器、そして被害者の服の繊維などが検出された。 そのすべてが、7人全員のいずれかのデータと一致し、雨宮が7人を殺害したことが決定的となったのである。 犯人逮捕を決定づけた『通報』。 それは奇しくも、13歳になる娘からのものだった……。
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