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月日は流れ、わたくしももう齢にして七十を越しました。
ホホ、口の悪い萩原家の若君には『オババ』などと呼ばれております。
先頃の夢占で若君──虎太郎様から頼まれたのは、
『オレの宿命は何処にある?』
などという抽象的な内容。おかげで返されたご神託は、
『上総ノ国の海に近い場所で吉兆とめぐり逢える。又、月読の加護を受けし者であろう』
と、これまた抽象的なものでございました。
幼少期よりお育ちを見守ってきた虎太郎様にございましたが、もとより、稀少なお生まれ。何しろ、神獣様でございますれば、数奇な運命にも見舞われましょう。
ええ、わたくしは未だ巫女でおりまする。現役でございますとも。霊力の衰えは一向に感じておりませぬ。
ただ……年々、足腰はだいぶ利かなくなってまいりましたがね。
──ああ、あちらから、若き日の尊臣様に瓜二つの男性が。
「ご無沙汰しております、お祖母様」
折り目正しく挨拶されるなど、外見だけしか似てはおりませぬが、紛れもなく、かの御方のお血筋を受け継がれておられることが分かります。
「虎次郎様。わたくしのような者に頭を下げてはなりませぬ。どうぞ、虎太郎様のように婆とお呼びくだされ」
「なれど、母上の実の母君で在らせられるのは、可依様でございます。私がお祖母様とお呼びして、なんの障りがございましょうか。
兄上は生来、口の悪い方ですからね、お赦しください」
そう言ってわたくしの手を取り、連れ立って歩こうとなさる、虎次郎様のなんと麗しきことでございましょう。
わたくしは、果報者にございます。
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