❖ ❖ ❖

1/2
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

❖ ❖ ❖

月日は流れ、わたくしももう(よわい)にして七十を越しました。 ホホ、口の悪い萩原(はぎはら)家の若君には『オババ』などと呼ばれております。 先頃の夢占で若君──虎太郎(こたろう)様から頼まれたのは、 『オレの宿命(さだめ)何処(いずこ)にある?』 などという抽象的な内容。おかげで返されたご神託は、 『上総(かずさ)ノ国の海に近い場所で吉兆とめぐり逢える。又、月読(つくよみ)の加護を受けし者であろう』 と、これまた抽象的なものでございました。 幼少期よりお育ちを見守ってきた虎太郎様にございましたが、もとより、稀少(きしょう)なお生まれ。何しろ、神獣様でございますれば、数奇な運命にも見舞われましょう。 ええ、わたくしは未だ巫女でおりまする。現役でございますとも。霊力の衰えは一向に感じておりませぬ。 ただ……年々、足腰はだいぶ利かなくなってまいりましたがね。 ──ああ、あちらから、若き日の尊臣様に瓜二つの男性が。 「ご無沙汰しております、お祖母(ばあ)様」 折り目正しく挨拶されるなど、外見だけしか似てはおりませぬが、紛れもなく、かの御方のお血筋を受け継がれておられることが分かります。 「虎次郎様。わたくしのような者に頭を下げてはなりませぬ。どうぞ、虎太郎様のように(ばば)とお呼びくだされ」 「なれど、母上の実の母君で在らせられるのは、可依様でございます。私がお祖母様とお呼びして、なんの障りがございましょうか。 兄上は生来、口の悪い方ですからね、お(ゆる)しください」 そう言ってわたくしの手を取り、連れ立って歩こうとなさる、虎次郎様のなんと麗しきことでございましょう。 わたくしは、果報者にございます。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!