証言

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証言

「どういう事ですか!?」新田からの発言に、井崎は思わず耳を疑った、「君が殺人気を追っていたのを私見ていたのよ!」 予想だにしない思わぬ状況に動揺していると、井崎はすぐさま浮かび上がった事を新田に問いかけた、「私は、殺してないんです、あの日何が起きたのか本当に何も覚えていなくて、何か知っている事があれば教えてください、お願いします新田さん!」 井崎は必死な表情で新田にそう投げ掛けた、すると、新田はふと視線を井崎から外し、外を見渡した、「私が知っているのは、君が薄暗い路地のビルに入ったとこまで、」  うつろな目で覗く新田の表情から井崎は、新田の心情を感じ取れなかった、「では、その後はもう何も知らないと…」    「井崎君!」 新田の証言から諦めかけていたその時、突然名前を呼ぶと、こちらに再び振り返った、「君がビルから入った後、黒いアルファードの車が近くの道路へと止まって、何者かわからない二人が後にビルへ入っていったの」  その言葉に井崎は疑問を浮かべた、「あのビルに誰かいたんですね?」    「でもその後の二人が何をしていたのかは、何も知らないわ」 新田は申し訳なさそうな表情で井崎の方を見つめると、井崎は新田から視線を反らして考え事をしていた、それから5分後、新田は職場からの電話で店から出た後、井崎はまだテラスの席に残っていた、「やはり、私以外の誰かが、あの場にいて、罪を擦り付けようとしていたのか?」新田からの証言が何度も頭の中で巻き戻されるように、井崎は険しい表情を浮かべながら、どうにかあの日の事を思い出そうとしていた、そんな時、、 「誰かにつけられてるぞ、」突如声のする、新田がいた席の方を振り向くと、目の前にはあの日に見た、もう一人の私が席へとくつろいでいた、「やっぱり幻想なんかじゃ無かったんだな」   井崎は呟くような小声でもう一人の自分に言いかけた、「そんなことより後ろ振り返ってみろ、ずっとお前の事をカメラで撮ってる事に気がつかねぇのか」 しかし、もう一人の自分が話す警告に耳を傾けることなく、淡々と問いかけ始めた、「あんたは何か見てないのか、あの日、屋上で何が起きてたのか?」 するとその時、井崎の背後から女性の声が聞こえてきた、「井崎さんですよね?」    「えぇ、そうですけど」そう応えると、声をかけてきた若い女性は井崎のテーブルの席へと座り込んできた、「私、週刊日本の槙村と言います、戸熊一家殺害事件について、お話を聞かせて下さい!」井崎にそう言い放つと、槙村はジャケットの懐から録音機を取り出した、「私は何も知りません、偶然にも事件に巻き込まれただけです!」井崎は嫌気を感じ、すぐさま席から立ち上がると、槙村はしつこく井崎の後を追いかけてきた、「本当はあなた、何か知っていたんじゃないですか?、」 「何も知りません、」 「このまま逃げ切れると思ったら、大間違いですよ!井崎さん、」 井崎は足早に走り出し、店から出ると、槙村の追ってから逃れていった。 「ピンポーン、」 その頃三上は、亡くなった田中の実家へと足を運んでいた、インターホンを押し、しばらくの間、扉が開かれるのを待っていると、「ガラガラガラ!」引戸のドアが開かれ、玄関の中から母親が姿を見せた、「お久し振りです。お母さん…」そう言うと、三上は頭を下げて会釈した。 田中家のリビングへと入ると、みすぼらしい部屋の光景に目を反らすことなく見渡しながら息を呑んだ、「娑婆に出た後、彼はどうしたんです?」ふと目に映った母親と二人の写真を見ながら、三上は母親に問いかけた、「あの子は…どうにか更正しようと頑張って、小さい頃からお世話になっていた知り合いの会社に入ったんです。小さな企業でしたけど、一生懸命頑張ってたんです…」すると、母親の様子が話していくにつれ、段々と急変して涙ぐみ始めた、「大丈夫ですかお母さん?」 三上は咄嗟にハンカチを手渡し、母親の話しに耳を傾けた、「よりによって、その会社の裏には、裏社会の人間がバックに着いていたらしく、………………、多額の不在を抱えることが出来なくなって、勤めていた会社が倒産したんです。そしたら…」涙を浮かべながら母親は、リビングに置かれた棚から、紙切れのような物を取り出し、三上に渡してきた、「これは?」   「会社が無くなったからって、奴らは債務を社員に回したんですよ」ふと渡された紙切れを読むと、そこには億単位の支払金が要求される記載が書かれていた、「これは、、一体の何処の組みの人間ですか!?」   三上は真剣な眼差しで母親の顔を見ながら問いかけた、「微かに、息子が話していたのは、織田会という名前だったような気がします、」 その言葉に、三上は驚きを見せた、「お母さん、息子さんが勤めていた会社は今何処にありますか?」。 夕方の6時、芝原署前では、勤務を終えて署の入り口へと出てきた安藤は、ふと立ち止まると、その場から煙草を取り出した、「フー、」白い煙を吐きながら、見張り番の警官に挨拶をして、駐車場に止めている車の方へと向かっていたその時、「少しお話いいでしょうか、安藤刑事、」突如安藤の前に現れたのは、週刊記者の槙村だった、「戸熊一家殺害事件について、お聞きしたいことがあるのですが」 録音機を咄嗟に取り出す槙村に安藤の足が止まると、槙村は積極的に問いかけようとするも、安藤は煙草を加えたまま険しい表情で槙村を見ながら一言言い放った、「捜査の事でしたら、私ではなく広報官に聞いてください」槙村にそう話すと、目の前で煙を吐き、そのまま去ろうとしたその時、「噂ですが、ヤクザと癒着関係にある汚職警官がいると言う話を聞いたのですが…」背後からそう言い放った槙村の発言に、安藤の足が止まった、突然立ち止まった安藤の姿に確信を持った槙村は、そのまま下がることなく、更に問い詰めようとしたその時、ゆっくりと安藤が後ろへ振り返った、そして、槙村の近くへと接近すると、煙草を口から離し、槙村に一言言いかけた、「少し場所を変えて話そう、」鋭い視線でこちらを見つめる安藤からの圧に、槙村は屈せず、息を呑みながら後についていった。
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