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「邪魔だったか?」
「いいえ、今、パーティーの参加者の名前を確認しようとしていたところなんです。覚えられなくて。どうぞ、ソファーに掛けてください」
「急に決まった結婚式で、人数はそんなに呼んでいないささやかすぎるパーティーだ。いずれ名前なんて覚える。気にする必要はない」
話しながら、レイブラックはソファーにゆっくり腰掛ける。
「そうですか」
私は再び机に書類を戻す。
「レイブラックは、なにか私にご用でもあったのですか?」
「ある。明日、母が来ることになった」
「えぇっ!?お越しにならないはずじゃ…」
「あぁ、その予定だった、と言うか、ずっとお前には会いたがっていたのだ。ただ、形だけの結婚式の為に、皇太后をここまで迎えるのが、面倒だったのだ。
お前にも話した事があっただろう?母は勇者からは見えない小さな村にすんでいると。そこから出るにも入るにも手続きが大変な上に立場が立場だけに余計に面倒で。それが、今回、その村から勝手に内緒で出ようとしていたのだ。理由は結婚式に出席したいと」
彼は舌打ちをする。
「私に会いたいのではなく、息子の結婚式見たさにではないのですか?」
私が苦笑いを浮かべると、彼は左右に首を振った。
「それもなくはないだろうが、母は体が弱くて、子供は私1人しか望めなかった。息子の他に娘も欲しかったらしい。だから、結婚すると連絡した時は、娘が出来る!と大喜びだった。
……まぁ、そんな大喜びの母を放っておいたらどうなるか今なら考えつくことだったけれど」
「そうだったのですか。…‥私も皇太后様にお会いできるのを楽しみにしています」
「母の名前はマリエーシャだ。俺からの連絡は以上だ」
レイブラックが立ち上がる。
「お前からは俺に何か話はあるか?」
「特にございません」
なんとなく、明日が結婚式だとどんどん実感が湧いてくる。
「では、戻る」
「おやすみなさいませ」
両手でドレスを少し上に上げ、頭を下げる。
彼が出て行った瞬間、ベッドにどっと座る。
はあ、疲れる。
思っていた以上に疲れる環境だわ。
街の端の魔法薬店に戻りたい。
***
結婚式当日。
私は黒いドレスを着ていた。
レースもリボンも輝く宝石も細やかにつけられ最高に綺麗なドレスだったが、やはり黒い。
この間、ドレスを選ぶ時に見ていたものの、改めて黒いドレスを着るんだなと、底に落ちた。
もし、キイシャの街で、誰かと結婚していたならば白いドレスを着ていたに違いない。
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