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5.成人
三年間、青葉は欲望を耐え、最後の一線を越えることなく成人式前日の土曜日となった。まるで自分へのご褒美のように、青葉は容子にも振り袖を買い、娘のものと並べてリビングに飾った。
(明日、あたしはロストバージンするのか――)
寮のベッドに寝転がり、容子は翌日の行動を考えた。
(どうすればいいんだろう……。家には陽菜子がいる。放っておいて外で会うわけにもいかないよね……)
結局、妙案は浮かばない。かといって、出たとこ勝負も落ち着かない。ここは青葉に相談するしかない。モデルのアルバイトをどうするか相談する目的もあり、容子は青葉に電話をかけた。
いつもすぐに応答するのだが、その日は待たされた。
漸く出た青葉は、少し沈んだ声だった。
「今日は撮影をお休みしよう」
開口一番、青葉はそう申し出た。
「わかりました。でも、何かあったのですか?」
「実は、娘にキミとのことを打ち明けたんだ。うすうす勘づいていたようなんだが、やはりショックみたいでね――」
(ざまあみろ)
ようやく、陽菜子は父親を奪われている事実を突きつけられた。
「明日、成人式の後、あの子は、正人君のお宅が招待されている。一緒に来ないのかと訊かれたので、ぼくはキミと過ごすと答えた。明日は帰らないから、キミは正人君の家に泊めて貰いなさいって――」
青葉が明日のことをちゃんと考えてくれているとわかり、容子は素直に嬉しかった。
「……ありがとう」
「明日、幕張のホテルを取った。それでいいね?」
「はい」
本当は、今すぐ階段を駆け下りて、青葉に抱きつきたかった。
電話を切り、明日への期待が静かに落ち着いていくのと入れ替えに、スマホが鳴った。
(正人君!)
一瞬のためらいを捨て、容子は応答した。
「今日なんだけど……」
久しぶりに聞く正人の声は、僅かだけど震えているようだった。
「会えないかな」
どう反応すべきか、容子は戸惑った。
「ちゃんと説明していないから……」
言い訳がましい声だった。
「陽菜子と結婚すること?」
「ああ」
「それなら、もういいよ。おめでとう」
「でも……ちゃんと会って話したい。ケジメだから……」
自分としても、そうなのかもしれないと容子は思った。初恋の人で、初めてキスをして、Bまで許した相手なのに、きちんとお別れをしていない。
「わかった。どうすればいい?」
「車を買ったんだ。駅のロータリーに回すから、そこに来てくれるかな」
この家の前で拾えば済むものを、敢えて駅のロータリーで待ち合わせる。陽菜子には秘密にしたいのだろう。
「わかった。いつ?」
「五分後はどう?」
すぐに出なくてはいけない。
「わかった」
慌ててジーンズに履き替える。心が浮き足立っていると容子は気づいた。
(あたし、馬鹿じゃん――)
薄くルージュを引き、半袖のTシャツにジャンバーを羽織り、容子はロータリーに向かった。
*
駅前に立ってロータリーを見回すと、黒いSUVのドアが開き、長身の男が降りた。
(正人君……)
会わない間にまた少し背が高くなっているようだ。
(やっぱり、カッコいい……)
正人は手を振った。
スキップするように、容子は駆けた。
「お待たせ」
「今来たところだよ」
容子は助手席に座った。
(この席は、陽菜子の場所なんだ……)
そう思うと、息が苦しくなりそうだ。
稲毛海浜公園の駐車場に正人は車を停めた。少し離れて海岸まで歩く。空気が澄んでいて、富士山や箱根の山々、伊豆半島の先端まで見渡せた。
容子の短い髪を風が揺らした。
何も言い出せない正人に向かって、容子が話しかける。
「大学を卒業したら、すぐ結婚するんだってね」
「一応、そういうことになっている」
「あたしは、青葉社長と結婚するよ。そうなると、正人君は義理の息子になるね」
「そのことなんだけど――」
正人が立ち止まった。
「今朝、あいつから電話があった」
青葉に伝えられた直後、陽菜子は正人に電話をしたようだ。
「おまえ、本気なのか?」
正人は泣きそうな顔をしていた。
「いったい、何歳離れているんだよ」
「二十五歳だよ」
「倍以上も離れているじゃん。そんな年寄りと結婚する気か?」
「うん」
「オレ……」
正人は言葉を切った。次に言うべきことがたくさんありすぎて、迷っているらしい。
「そんなの不自然だと思うし、オレのことが原因なら申し訳ないし……クロコが……そんな男に抱かれるなんてイヤだし、我慢できない」
(何言ってるんだ、この馬鹿――)
ふつふつとこみ上げる怒りを抑え、容子はめいっぱい優しく微笑んだ。
「仕方ないじゃん。正人君は陽菜子と結婚するんだから」
「やっぱり、それが原因なんだ……」
「そりゃあ、そうだよ。あたしは、正人君のお嫁さんになるのが夢だった。それが叶わないとわかったときに、一番近くにいたのが青葉社長だった」
正人が、足元の小石を蹴飛ばした。
「今朝、その話を訊いて、オレ、わかったんだ」
「何が?」
「オレが好きなのは、やっぱりクロコだけだ。クロコを、あいつに取られたくない」
(ふざけやがって……)
「新京葉鉄工所の後を継ぐには、養子になるしかないんでしょ?」
「だけど……」
「あたしは、正人君にそうなって欲しいよ」
「え?」
「大切な人なんだから、幸せになってほしい」
「でも……」
「考えてもみなよ。このまま行けば、あたしと正人君は同じ屋根の下で暮らすんだよ。毎日だって顔を合わせられる」
「だけど、クロコはあの男と……」
「そりゃあ、夫婦だもん。セックスするよ。でも……正人くんとだって……」
正人は目を見開いて容子を見た。風で目が乾いていくのも構わず、じっと見つめる。
「いいのか?」
容子はうなずいた。
「社長の座とあたしと、両方、手に入れちゃいなよ」
その目が狡く光るのがわかった。
(しょせん、そういう男なんだよね)
「これから、ホテルに行かないか?」
「それは……」
「まだバージンなんだろ? あんな年寄りじゃなくて、オレが最初の男になりたいんだ」
心の底から憎らしいのに、容子は動揺した。
(どうしよう……あの人と約束したのに……三年も待たせたのに……あたし、正人君としたいかも……)
「……うん」
正人は容子の肩を抱いた。
そのまま駐車場に戻り、車に乗る。正人は幕張インターチェンジ近くのラブホテルに車を走らせた。
チェックインを済ませ、手を引かれて部屋に入る。
「クロコ……会いたかった」
「……あたしも」
ベッドに押し倒され、貪るようなキスをする。
(それでいいのか?)
もう一人の容子の声が聞こえた。
(三年待たせたあいつを裏切るのか?)
はだけたジャンバーの下に着たTシャツをたくしあげ、正人はブラジャーをずり上げようとした。
「待って!」
容子はその腕をつかんだ。
「やっぱり、できないよ」
「どうして?」
「あの人のこと、三年も待たせたんだから……」
「オレも、あと二年待たせる気か?」
「ごめん……」
容子は体を起こした。
「ホテル代、無駄にさせちゃったね」
「もったいないから、デリバリーでも注文しようか」
正人はカツ丼、容子はサンドイッチを注文した。
*
成人式の朝、青葉が運転するジャガーに乗って、二人の新成人はヘアサロンへ向かった。髪をセットし、振り袖を着付けてもらう。青葉は愛用のデジタル一眼で何枚も写真を撮ったが、明らかに不公平な撮り方で、圧倒的に容子の枚数が多い。
青葉は成人式の会場にも入ってきた。カメラマンのように場所を移動し、何枚もバージンの容子を撮る。
成人式自体はあっさりしたもので、暴れる馬鹿もおらず、中学の同級生たちと二次会の居酒屋へ行った。みんなで乾杯し、雑談が始まる。正人は車で来たからとウーロン茶を飲み、周囲のひんしゅくを買った。
幼い頃に一緒に缶蹴りをした鎌田康夫が真っ赤な顔で容子に近寄ってきた。
「北尾さん。オレ、ずっと北尾さんのことが好きだったんだよ」
知っていた。中学生の頃、よくこっちを見ていると気づいていた。
「オレ、オヤジの工務店を継ぐことになった。ゆくゆくは鎌田工務店の社長になる。新京葉鉄工所の工場や住宅の電気設備はウチで施工したんだぜ」
「へえ、すごいじゃん」
「その前提でお願いするんだけどさ――」
鎌田は背筋を伸ばした。
「オレとつき合ってくれないかなあ」
頭も容姿も悪い鎌田は、決してモテるタイプではない。ただ、馬鹿みたいに明るいところがあって、クラスの人気者ではあった。
「ごめん」
「どうしても?」
「うん。あたし、つき合ってる人がいるんだ」
「やっぱ、正人か?」
鎌田は正人の背中に視線を向ける。
「違うよ。別の人――」
「マジ?」
「うん」
鎌田は腰をかがめ、声をひそめた。
「教えてよ」
「恥ずかしいからダメ」
「ケチ」
「ごめんね」
「でもさ、正人じゃないってことは、オレにもチャンスあるってことかな」
「……それは、厳しいかな」
「なんで?」
「あたし、その人と結婚するから」
鎌田はぽかんと口を開け、がっくりと肩を落として引き返した。その隙を狙ったように、正人がやってきた。
「話がある。千葉みなと駅のロータリーで」
耳元で囁く声がくすぐったい。正人は陽菜子と言葉を交わし、そのまま店を出て行った。
(なんだろう……)
青葉には、午後六時までに帰ると伝えてある。時計を見ると四時過ぎだ。正人の背中に陽菜子が手を振っている。
「正人君、どうしたの?」
容子はとぼけて尋ねた。
「高校野球部の仲間と集まるんだって」
それから十分ほど時間をやり過ごし、容子も席を立つ。
「クロコ、帰るの?」
「うん。ちょっと酔っ払っちゃったし」
「お父さんと会うの?」
アルコールのせいか、陽菜子は涙目だ。
「ごめん、もう知っているんだよね?」
「……うん」
「三年も待たせちゃった」
一瞬、陽菜子の目が泳ぐ。
「早く帰って、一緒にお酒を飲みたいんだ」
「わかった。あたしは、正人君の家に泊まるから」
「うん」
「お父さんを……よろしくね」
「うん。ありがとう」
容子は素直に礼を述べ、千葉みなと駅のロータリーへ急いだ。それほど飲み過ぎていないと思うが、少しクラクラする。ロータリーを見回すと、黒いSUVの脇で長身の男が手を振っている。
「赤い顔してるね。ドアポケットの水、飲んでよ」
「ありがとう」
ペットボトルの水を飲む。冷たい刺激に喉が喜んだ。
「話ってなに?」
「昨日の続きなんだけどさ」
(なんだろう……)
「二年待つ話」
「ああ、そのことね……」
「もうちょっと早くならないかな」
(可愛いこと言うなあ……)
「でも、そういう関係だってバレたら、婿養子の話がパーになるよ。社長になれなくてもいいの?」
「それは……」
「二年なんて、あっと言う間だよ」
「そうかなあ……」
「そうよ」
「寝室って、同じフロア?」
「うん。三階にある廊下の両端。徒歩……10秒くらいかな」
「そんなに近いんだ」
「ダイニング・キッチンとリビングは共用だから、生活は一緒だよ」
ふと、睡魔が容子を襲った。
「それを思えば嬉しいんだけど……」
「悪趣味だね。捨てた女と一緒に暮らせて喜ぶなんて」
「クロコを捨てたなんて思ってないよ」
「捨てたから、青葉家の婿になるんでしょ?」
「それは……そうしないと、新京葉を継げないから……」
「つまり、正人君が結婚する相手は新京葉鉄工所だってこと?」
「正直に言うと……それはある」
ずるい男だと容子は思う。
その不快な気持ちが濁っていき、意識が遠のいていく。
「でも、オレが好きなのは、クロコだけだよ……」
甘い言葉が、暗闇を漂った。
「ずっと、クロコと……」
SUVの単調な振動が、いつしか、容子を夢の中に連れていく。そこはとても温かな空間で、目の前には青葉がいて、荒々しく着物の裾を開く。
(いいよ――)
青葉はとても嬉しそうに頰笑み、ショーツを下ろす。露出した恥部が、早くほしいと青葉にねだる。
(きて――)
屹立した青葉の欲望が恥部に押し当てられる。それは恥部を押し広げ、ぐいと中へ押し入ってくる。
(あっ!)
痛みが脳天に駆け抜けた。それは悦びへと遷移し、味わったことのない快楽に容子は抱かれる。口の中いっぱいに青葉の肉が詰め込まれたような、得体の知れぬ感覚は紛れもなく快楽で、もっと入れてほしいと容子は青葉の腰を抱き寄せる。
(もっとちょうだい……)
青葉が動き、白い足袋が蝶になってひらひらと舞う。
(ああ……すてき……)
ふと、首筋に熱い吐息が吹きかかる。
(えっ?)
うっすらと目を開くと、闇の中に像が結ばれくる。
(正人君?)
違和感とも快楽ともつかない感覚が恥部を刺激した。
(なにやってるの……)
悪鬼と化した正人は、目を爛々と光らせ容子を貫いていた。
(あっ――)
正人は容子の腰を抱き、容赦なく突き立てた。
「……やめて……ああっ!」
それは紛れもない悦びで、心を忘れた肉体は正人の欲望を抱き締めていた。
「ダメだよ……」
言葉と裏腹に、容子の体は無抵抗に開かれる。
「うっ――」
正人の腰が、ずい、と奧へ突き立てられた。
熱いものが放たれたのがわかった。
(正人君……)
最後の一滴まで出し尽くすつもりなのだろう。正人は二度三度、容子を突いた。
吐息が、虚空を舞った。
なんとも言えない快楽に包まれているのがわかった。
(あたし……どうしちゃったんだろう……)
ぐったりと正人の体が覆い被さる。
(まさか……)
絶望が容子を打ちのめした。
青葉のために三年間守ってきたものが、あっけなく踏みにじられた。
SUVの助手席のシートを倒し、容子は眠ったまま犯されていた。
「クロコだって、オレとしたかったんだろ?」
満足しきった声が、そう囁いた。
「あんなオッサンが初めての相手なんて、おかしいんだよ」
「……だから、睡眠薬を飲ませたの?」
「ああ。感謝しろよ。あんなヤツに汚されなくて済んだのだから」
絶望が、冷たい殺意に変わった、
(ぶっ殺してやる――)
正人が放ったものが逆流してくる。
「着物が汚れちゃう……早く拭いて!」
怒声にひるんだ正人が、慌ててティッシュで容子の恥部を包んだ。
「貸して!」
正人からティッシュを奪い、欲望の残滓を容子は拭き取った。
「ここ、どこなの?」
周囲は漆黒の闇だ。
「家から十五分くらいの場所……」
遠くに車のライトが流れるのが見えた。どこかの駐車場に潜り込んだらしい。
「どうだった? オレとしてみて――」
容子は思いきり正人をビンタした。
「早く連れて帰って!」
時計は、六時五分前だ。SUVに揺られながら、容子は必死で着物を直した。
*
呼鈴を押すと、待ちかねたように青葉がドアを開けた。
「お帰り」
「ごめん、遅くなっちゃった――」
容子は玄関に飛び込み、青葉に抱きつく。
「おいおい、着物が崩れちゃうよ」
(もう崩れちゃってるよ……)
泣きたいのを堪え、容子は青葉の唇を求めた。
(何も無かった……。何も無かったんだ!)
「着物、脱いだ方がいいかな」
そう言って、ショーツを穿いていないことに容子は気づいた。
「いや、バージン最後の一枚をホテルで撮りたい」
(ごめん、あたし……)
もう一度、容子は青葉の唇を求めた。
溢れる悔し涙を、必死で堪えた。
*
「ホテルにある鉄板焼きの店を予約したのだけど、着物では食べにくいでしょ。だから、予約は八時にした。それまでに、写真を撮って、楽な服装で食事をしよう」
正人では有り得ない細やかな気配りが嬉しかった。
「わかった。早く行こう!」
容子は子供のように青葉の腕に甘えた。本当はシャワーを浴びて正人の匂いを洗い流したい。
(ごめんね。あたし、守れなかった……)
思い出すと涙がこみ上げてくる。
「ちょっと待って――」
容子はトイレに入り、ビデの水流で恥部を洗った。指を入れ、汚らしい記憶を掻き出し、少しでもキレイになりたかった。
海浜幕張のホテルへ到着し、チェックインを済ませる。一泊分なので荷物は少ない。それを部屋に運ぶよう頼み、青葉は容子を夜景と海の見えるバーに誘った。
「ステキ……」
キラキラと輝く夜景に、容子は思わず呟く。多くの視線が振り袖姿の容子を追いかけてくるのがわかった。彼らの目には、仲のいい親子に見えている。そう思うとおかしかった。
「この子、今日が成人式でね。何か、相応しいカクテルをお願いするよ」
青葉はドライマティー二を頼んだ。
「ピーチフィズをカクテルグラスでお出ししましょうか?」
それでいいかと青葉が容子を見た。
「あたし、何もわからないから……」
テーブルに運ばれた二つのグラスは、バーの照明を受けて夜景のように煌めいた。
「成人、おめでとう」
「ありがとう」
グラスを合わせる。本当の大人になる実感が沸きつつ、正人に犯された悔しさが黒い雲となって頭上に漂う。
一杯だけで、二人は部屋に行った。
(この人は、あたしがバージンだと信じている。正直に告白しなくていいのだろうか……)
青葉は早速カメラを準備した。その様子を眺めながら、黒い容子が現れる。
(バカだなあ、なに真面目ぶってんだよ。そもそも、このオヤジのせいで正人を奪われたんだぞ)
(そうだね。あたしは、ただ、奪われた以上のものを奪ってやればいいんだよね)
「さあ、ベッドに寝そべって――」
仰向けに寝ると、青葉は振り袖を羽ばたく鳥のように広げ、裾を開いた。
「脚をもう少し開いて……そう、膝を立てて」
連写の男が降り注ぐ。
「いいよ、キレイだよ」
ショーツが脱がされ、帯が解かれる。
「ぼくを誘惑して――」
容子はいっそう大胆に脚を開き、指先を恥部に当てた。
「……見てください」
既に溢れんばかりの泉を押し広げ、容子は奥を曝した。
「キレイだよ。とってもキレイだ」
「お願い、きて――」
青葉はカメラを置いた。
全てを脱ぎ捨て、容子の両脚を抱え、股間に顔を埋める。容子の体がしなるにつれて着物は崩れ、まるで花と戯れる一匹の虫となる。
何年もの間、断じて閉ざされてきた花園はついに扉を開かれ、男はその秘密をかき分ける。
「ああっ……」
小鳥が悦びにさえずり、訪問者にまとわり、あらん限りの慈しみをもって包容する。
襟がはだけ、乳房が揺れ、虚空に突き立つ乳首が震えた。
「中に……出して……」
求めを受け入れた男はいっそう激しく腰を振り、ついに怒涛の濁流が堰を切る。女は真のオーガズムを与えられ、全てを曝け出して地に落ちた。
「これ――」
バッグをたぐり寄せ、小さく畳んだ紙を出す。青葉が開くと、それは容子が判を押した婚姻届だった。
「いいのか?」
「うん」
青葉は裸の容子を抱き締めた。
「残りの人生、全てをかけてキミを愛するよ」
「……ありがとう」
容子は再度、青葉を求めた。
その夜、二人は三度交わり、その度に容子はオーガズムの極地を味わった。 (つづく)
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