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(やっとこの苦しみから解放されるんだ)と、妻は心の中で呟き走り出しました。テンポの良い足音に合わせるように、病院のリノリウムの床がキュウキュウ鳴いています。薄暗い廊下の先には、微かな光が見えていました。  夫との甘い結婚生活は、長くは続きませんでした。病気に罹った夫は、すっかり変わってしまったのです。負の連鎖に巻き込まれないよう、周囲の人たちは自然と去っていきました。残されたのは妻一人でした。  ベッドの上で苦しむ夫を視界の端に捉えながら、妻はとある夜に出会った不思議な男性の言葉を思い出します。「この瓶の中身を旦那に飲ませれば、あなたの人生が変わるよ」と優しく語る彼は、妻にとって一縷の望みでした。  夫の息づかいは激しさを増し、苦悶の表情が浮かんでいます。口の端から涎が糸を引き、真っ白なシーツを黒く濡らしました。微かに血も混じっているようです。  そこで妻は小瓶を取り出して、中身を夫の口に慎重に注ぎます。すると、どうでしょう。魔法のように夫の容体がみるみる変わっていきました。  見ると、夫は安らかな寝息を立てており、白い毛布が優しく上下しています。幸せそうな笑顔を浮かべているのは、いったいどんな夢を見ているのでしょうか。 「もう寝たのかしら? これなら大丈夫ね」と、妻は小さく呟きました。
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