牢獄

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「データをもらっていきますね」  会社から持ってきたUSBメモリに、データをコピーした。  このUSBメモリは、特別に権限が与えられている。  もし、普通のUSBメモリをパソコンに()したら、アラートが鳴って使えない。  僕が持っているこのUSBメモリも、この施設とチーム内の僕と水森さん以外のパソコンでは使用できない。  機密性の高い、重要な情報を漏洩(ろうえい)させないためだ。  コピーしている間、僕は苗島さんがいれてくれたお茶を口にした。 「毎回、わざわざこんなところまで来なくても、メールでシュッと送れば滝城さんも楽できるだろ」 「すみません、決まりなので。それに、僕なら大丈夫ですよ」  会社からはかなり遠いが、気分転換のドライブにもなる。  僕は、ここに来るのを苦とも思っていなかった。 「前の水森さんもそうだけど、アンタも大変そうだな」 「いや、僕は……」  苗島さんは、人のいいオジサンだ。  普通なら、僕くらいの子供がいてもおかしくない。  結婚して半年も経たずに離婚してから、再婚もせずに独身を(つらぬ)いてきたらしい。  そのせいか、僕を子供のようにかわいがってくれる。  コピーが終わっても、苗島さんの話は終わらない。  つい僕も、仕事を忘れて長話をしてしまった。 「苗島さん、のほうはどうですか?」 「あぁ、すっかり忘れるところだった。今のところ、すこぶる順調だよ」  苗島さんが一人一人の経過観察の報告書を僕に見せてくれた。 「本当ですね。ありがとうございます。苗島さん、今度食べたいものとかあったら、何でも僕に言ってくださいね」 「滝城さんが持ってきてくれるもんなら、なんだって尻尾振って喜ぶさ」
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