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「うまくいったのかな、お兄ちゃん」
小学校への道すがら、ぼくはお兄ちゃんにささやいた。周りでは同じ学校の子たちが連れ立って歩いていて、プレゼントに何をもらったか話している。
お兄ちゃんは空を見上げて雲の様子を観察していたけど、ぼくに顔を向けてうなずいた。
一ヶ月前、お兄ちゃんとぼくは密かに話し合ったんだ。
「サンタさんは子供にしか来ないんだから、お父さんとお母さんがプレゼントをもらうには別のサンタさんが必要だ」と。
お父さんとお母さんは毎日忙しい。二人とも仕事が大変な上に、家に帰ったらご飯を作ったりぼくたちの面倒をみていつも疲れている。二人きりで遊びにいっているところなんて見たことない。
それでお兄ちゃんとぼくはお父さんとお母さんにクリスマスプレゼントを渡すことにしたんだ。二人だけで過ごす時間だ。
ぼくたちがサンタさんをつかまえるためにワナをはったことにして、ふたりだけでリビングでゆっくり過ごしてもらえればって思ったんだ。
うまくいったかわからない。おせんべいはずいぶんかたいものだったし、ドアのきしみを直すスプレーは玄関の棚に隠しちゃった。慌てさせちゃったかな?
でもお兄ちゃんは「うまくいったよ」とうれしそうにうなずいた。
「だって、冷蔵庫にあったお父さんの秘蔵ワインの瓶が朝になったら空になっていたから。ほら、光太だって昨日の夕飯のとき、クリスマスが嬉しくてオレンジジュースをたくさん飲んだだろう? それと同じだよ」
お兄ちゃんの説明はわかりやすい。ぼくは納得した。
後ろからクラスメートの男の子が追い越していって、僕は手を振りながら口をひらく。
「クリスマスって良い日だね」
お兄ちゃんが不思議そうに僕の顔をのぞきこんだ。何でそんな当たり前のことを今さら言うんだと言いたげだ。お兄ちゃんはいつも『りくつっぽい』。
「だって、お父さんとお母さんのためにぼくたちがサンタさんになれたんだよ」
お兄ちゃんははっとしたように目を見開いて、ぼくを見つめるとにっこりと笑った。
「クリスマスは誰かにプレゼントをあげる日だけど、誰かのサンタさんになれる日でもあるんだな。その証拠にーー」
お兄ちゃんはぼくの頭をくしゃくしゃっとなでた。
「昨日、僕と光太は田中家のサンタさんになれたんだからな」
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