私と冬の思い出

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私と冬の思い出

 【SideA】  街に雪が降る。冷たい風が頬を突き刺すこの頃。傘を忘れて肩に小さな雪山を作る子どもや、北風に向かって走り出すサラリーマンの姿が目に映る。私は外に一切出ることなく、寒さからは程遠いベッドの中で冬の喧騒に思いを馳せていた。  1時間ほど経って何を思ったのか身支度を始める。今年もやっと使える、と冬色のアイシャドウパレットを眺めてみる。蛍光灯の光でもキラキラ輝くラメは、まるで流星群を宿したようなきらめきをみせた。冬のメイクの楽しさに気付いた私は、ここ数年、冬の時期が楽しみでしょうがない。少々時間を気にしながら支度を済ませると、おろしたてのブーツを履いて雪道に向かう。足元が怖いけど、身に纏うものが可愛いので今日のところは良しとしよう。  ひとりの時間が増えたこともあって、外に出る機会が極端に減ってしまったから、流石にこの寒さは堪えた。寒すぎる。それでも目的もなく歩いてゆく。暫く道なりに進むと馴染みの図書館がみえた。そういえば、貸出カードの更新してなかったな。丁度寒さに耐えられなくなっていたので、躊躇うことなく図書館に入った。更新手続きをさっと済ませて文庫本コーナーへ向かう。『本の虫』をやっていた時代があったので、その頃の本が読みたくなって所謂ライトノベルを読み漁る。今に繋がる趣味を作ったのは確実にこれらのせいだろうな、そんなことを考えながら手に取った本を読み進めていった。一通り読書を済ませ、身体も随分温まったので、図書館を後にして再び雪道を歩き出す。  『ねえねえ、あっちでクリスマスマーケットやってるんだって』  聞き覚えのある明るい声。振り返るとそこには幼馴染がいた。  『久しぶり』  『まって白々しくてウケる、とりま行こうぜ!』  思い出した、この子こんなテンションだったわ。ツッコむ隙もなく、いつの間にか手を引かれた。こんな感じで手を引かれたのっていつだったっけ。ずっと小さいときも勢いでクリスマスマーケットに行って、迷子になって帰れなくなったことがあった。親にはこっぴどく怒られたけど、あの場所で過ごす時間は今でも幸せだった。沢山の電飾で飾られたイルミネーションや様々な人であふれかえる場所での記憶が、幼馴染の手によって再び蘇ってくるのだと思えば、もう少し外に出る日を増やしてもいいのかな。  『着いたー!』  『あ、ここのイルミネーション、すごいな』  『でしょー??ここ、もう一度あんたと行きたかったんだよね!』  どうやら幼馴染も同じことを考えていたようだ。思い立って支度してよかった。幼馴染とこうやって過ごす時間ができたのだから。雪の寒さに香るココアの甘い香りに穏やかになる心は、電飾の光に負けじと空に降り注ぐ星々に気付くことができるぐらいの心の余裕をくれた。
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