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「じゃあ、これから総会を始めま〜す。今回は主に新入生歓迎会について、既に各委員会からの承認や〜、風紀委員会との協力については話を合わせているので確認していきたいと思います〜」
7つの委員会の委員長と風紀副委員長の蓮見、そして俺を合わせた9名が円卓を囲み、俺の後ろに橘先生が座る。会議が始まる前にそれぞれのテーブルに置いておいた資料をそれぞれが手に取る。
白い紙には、生徒会が決めておいた新歓の大筋のスケジュールや動植物園内の地図などが書かれている。
「センパイたちに送った説明と大きく変わったところはなくて、予定通りに動植物園とホテル、移動用のバス、その他細々した物も予算と相談して進めてます〜」
「3年と役員が前日に移動するのは分かったけど、翌日移動する生徒たちはどうするんだ。ワタシたちが行くとまとまらなくなるし、教師の指示に従うやつはほぼいないだろう。ましてやお前の言うことは、お前の親衛隊以外いないだろう」
コチラに鋭い目を向けて質問してきたのは、美化委員長の九十九 夕鶴センパイ。潔癖症で色んな人と関係を持っていると評価されている俺の事を毛嫌いしているヒトだ。抱きたいランキング3位の美人さんで、踏まれたい奴隷が沢山付き従っている。
そして恐ろしいことに、潔癖症の九十九センパイが最も敬愛しているのは風紀委員長の水埜であり、風紀と敵対している生徒会を同じように敵対しているというとんでもない構図が出来上がっている。
今日も紺色の髪をボブ型に綺麗に揃えた九十九センパイは、嫌いな俺が司会であるこ普段来ている如月がいないことに対してイライラした様子を隠さず、頬杖をついた。
「生徒会もお前の話は聞いていないじゃないか」
「あはは、翌日来る生徒たちは学級委員長や各クラスにいる風紀委員を中心に全員に対して、ミッションという形でまとめてもらおうかなぁって思ってますよ〜」
「八千代殿!!ミッションとはなんでござる?」
ガハハと口を大きく開けて、腹から声を出すのは鷹司 蘭丸センパイ。体育委員長を務めている彼は、快活で真面目なヒトだ。
「ミッションは至極簡単です。〖時間通りに移動し、新入生歓迎会を始めよう〗。ただ、これだけだと怪我をする人とか不正を働くし人が出てくると思うので〜、ルール伝達の上、全生徒には獅子王から、風紀委員には水埜いいんちょ〜から挨拶をしてもらおうと思ってます」
「し、獅子王会長はご挨拶をして下さるんですか?」
声を震わせながらこちらを見あげてくるのは図書委員長の縣 八雲センパイ。潤んだ緑の瞳は、癒し効果があるらしく、本人の小動物的な性格も相まって屈強な男たちに人気である。
縣センパイが怖がらないように、ニッコリと微笑む。
「もちろん。今回のような大型のイベントでの挨拶をしないことは獅子王にとっても痛手でしょうし〜ね」
「あ、あばばばば」
「?」
「イオリ、笑顔が黒いぞ」
「ん〜?まぁ、それぞれ委員会でも声がけをしていただけたら嬉しいですねぇ。彼らが1番尊敬しているのはセンパイ方ですので〜」
「ニャハハハハ、嬉しいことを言ってくれるねー!」
嬉しそうにホカホカと笑うのは、広報委員長の猫屋敷 誉センパイ。不思議ちゃんで、鼻が利く。情報通で、学園のことなら猫屋敷センパイが1番だ。
ただし、秘密は多い方が、飛び道具として使えてお得。しかも、俺たちはこれから社会に出る身。つまり警戒心は常に高く、渡していい情報とダメな情報の判別は正しくする必要がある。
「付け加えて、さっき八千代と相談して決めた情報だ。部屋と動植物園を回るペアは一緒だ。1年と2年は混ぜて、3年は3年で組ませようと思っている。事件を起こしそうなペアは無くしたつもりだが、各々知っている危険なペアがあったら報告してくれ」
「了解です」
「ほいよー」
数分設けられた時間内には、各委員長からの発言はなかった。水埜と目配せをして(九十九センパイからの視線が強くなった)、次に進めようと口を開いた時、
ガタン!
「おい、唯織はいるか」
大きな物音を立てて入ってきたのは、相変わらず尊大な態度を崩さない獅子王 克登生徒会長だった。
獅子王は、会議室をグルリと見回すと、俺に視線を合わせ、不敵な笑みを浮かべた。
ちなみに、獅子王が入ってきた瞬間水埜から圧が掛けられ、圧に弱い縣センパイは震えが止まらず、水埜を信仰している九十九センパイはキラキラとした目で見ており、その他の委員長も様々な反応をしてしてはいるが様子見の姿勢を取った。
「唯織、お前オレが呼び出してんのに何無視してんだ」
「あれまぁ」
「あれまぁ、じゃねぇんだよ」
「まぁまぁ、ちょうど会えて良かった〜。獅子王、お願いがあるんだけどさぁ」
「あん?オレの方が先に呼び出してたんだからオレの話を先に聞けよ」
「え〜、……まぁいいよ〜何〜?」
入口のドアに寄りかかったまま真反対にいる俺と会話を始めた獅子王に増々圧がかかるが、ニッコリと笑い一旦無視を決め込む。機嫌を損ねた王様はタチが悪いからね。
「フン、ユウマがお前と会いたいそうだ。わざわざオレが直々に言ってやってんだから来るだろ?」
「残念だけどお断りだよ〜?」
「はぁ?何故だ」
「俺は物部 悠真くんには1ミリも興味無いの。それに今はとっても忙しいんだよね〜」
「何を言ってるんだ。ユウマよりも優先すべきことはないだろう?」
会話を続けていくと、段々委員長たちが引いたような目を獅子王に向けられるようになってきた。それに気づかないのか、獅子王は俺を鼻で笑って近づいて来ようとする。
しかし、今日は隣に座っているのは水埜だから、来られると面倒くさいことになる。だから、俺が立ち上がって獅子王に近づいていった。俺の行動に獅子王は満足そうに笑った。
「獅子王が誰に恋をしようと俺は興味はないけど、生徒会長としての役割を放棄することは見過ごせないなぁ」
「あ?別に放棄しようとはしてないだろ」
「ほんとに〜?じゃあ新歓の挨拶もしてくれるよねぇ?」
「ハッ、当たり前だろ!」
「わぁ、ありがと〜じゃあこれよろしくねぇ」
ポン、と叩くようにして渡したのは新歓の挨拶の文章。会議の内容を知らない獅子王のために予め作っておいたものだ。
奪い取るようにしてそれを受け取った獅子王は、瞬間的に話をすり替えられたことに気づいたのか目を釣りあげた。美形が怒った時って迫力あるな。
「おい、これは会長命令だ!ユウマと会え」
「……本気で言ってるの〜?」
「オレが嘘を言っているように見えるのか」
「本当に残念だけどそうは見えないねぇ」
「ほら、だったら行くぞ」
そう言って腕を掴んできた獅子王に、視界の端で水埜が口を開いたのが見えた。
が、その前に俺は態とらしくため息をついた。
「獅子王会長、今、俺は何をしていたか理解してますか」
「は?……定期総会だろ?」
「はい、今日は総会を如月の代わりに出席しました。て、今日の課題はゴールデンウィーク後にあるイベントの事なんですけど、何があると思います?」
「……新歓だろ」
「そうですね。じゃあ、それを踏まえた上で、俺が今、全く興味のない獅子王会長の恋愛事情の力添えのために、全く興味のない物部悠真に会わなくてはいけない理由を教えてください。言っておきますが『オレが世界の中心だから』みたいな戯言は止めてくださいね」
ぐぅ、と喉を鳴らしながらこちらを睨みつけてくる獅子王に、無表情で見つめ返す。
確かに、ヒトは愚かで、その愚かさを持った獅子王たちは可愛いけど、流石にやっていい事と悪いことはある。それに、将来社会の先頭に立つべき人材が、言ってしまえばあんなニンゲンに振り回されて良い理由がない。
「……さぁ、どうなんです?」
「ッッ……イオリ、怒ってるのか」
「怒る……?いいえ、そんなどうでもいいことに対して怒ったりしませんよ。呆れているだけです」
「……ッッ!す、すまなかった……」
「?、それは何に対してですか?今回、獅子王会長たちの恋愛事情に振り回されたのは全校生徒ですけども。それよりも、『オレのユウマに会え』という話はどこに行ったんです?」
「……いや、もう大丈夫だ」
「……ふぅん、他に今片付けておくべき用は?」
「……本当にすまなかった」
「ですから、今そういう風に謝られても困ります。何に対して反省しているのか明確にしてきてください。それ以外にないのだったらお帰りください」
「……あぁ」
「あまり入れ込みすぎないように〜」
肩を落とした獅子王を見送って、席に戻る。
ひと口いつもより苦味のある紅茶を口に含んでから、途中まで進んでいた資料を1枚めくった。
「獅子王がご迷惑をおかけしました〜。で、今の所危なそうなペアが見当たらないんだったら次に進もうと思いますよ〜」
シン、と静まり返った会議室に1人俺の声が落ちる。
各委員長たちや蓮見の顔を見ると、揃って驚きで口を開いていた。そんなに獅子王が転校生に肩入れしていることに驚いているのかと数秒待っても誰も話さない。
これは戻ってくるのに時間がかかるかなと、頬杖を着いてボーッと観察する。
どんな間抜けな顔をしていても美人は保たれたままだなと思っていると、隣の水埜が立ち上がって少し距離のある俺の元まで近づいてきた。
そして、大きな両手で俺の頬というか顔を包んできた。と思ったら、そのままふにっと力を入れて挟まれた。
「……にゃに」
「唯織……アレがお前の本当の姿なのか?」
「本当の姿ぁ?にゃあに、俺いつの間にかヴィランみたいになってたの〜?」
空いていた両手でガオーとしても、「違うよ」と放送委員長の風早センパイに返された。それに他のセンパイたちも肯定を示すように首を縦に振っている。
何、全員獅子王に驚いてたんじゃなくて俺に驚いてたってこと?
ずっと頬を挟んでくる手を話して眉を顰める。
「前々から言ってるじゃないですか〜。俺は与えられた責任には応えますよぉ」
「く、く口調はどうしてそんな感じに……?」
「口調〜?あぁ……この見た目で真面目に話すと怖くないですか?」
「え、う、ううん……か、可愛くなるね」
「そうだな、その口調を直せばチャラ男っていう評価は消えるんじゃないか?」
「あれぇ?小さい頃、怖がられたから口調と一人称変えたのにな」
「ほお、一人称も。これは面白いすれ違い」
「え〜、じゃあ元に戻すか……」
縣センパイと水埜の評価に思わず遠い目をすると、広報委員長の猫屋敷センパイに笑われた。
確か初等部のときに、俺の見た目で普通に話すと人形みたいで怖いって言われたんだっけ。でも、そうでもないなら面倒なことはしなくてもいいか。
そう開き直って会議をさっさと進めようと、水埜をイスに送る。
「さて、次は宝箱の位置の確認だけど、コレは実際の行ってから最終確認をしようと思てます。宝箱は鍵の付いた頑丈で勝手に開けられない箱を用意してます。奪い合いにならないように、各エリアへの行動は時間制で1番最初に触った人を防犯カメラで確認しようと思ってます。何か意見がある方は?」
「……いないな。次」
「バスは〇〇社を予約済みです。ホテルは如月のところで、その他先に配った資料からの変更点はありません」
「今のところそんなものか。何か言いたいことがあるものはいるか」
水埜の声がけに各々がないことを伝えたことを確認して、俺は手を挙げた。
「会計?」
「ん、俺から1つだけ。今更かもしれませんが、転校生の物部悠真には気をつけてください。アレの影響次第では八千代が動きます」
俺の言葉に、それぞれが驚きを示した。
八千代が動くということは、各家の中央組織が動くということ。つまり、社会的に殺されることを意味しているからだ。
「皆さんも、巻き込まれたくなければお気をつけくださいね」
凍った空気に、ニッコリと微笑む。
いつでも余裕を持って、公平無私に判断を下す。
『優しい八千代を怒らせたら終わり』という言葉は有名であった。
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