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#1 I’ve Got A Feeling
『やめとけって、俺みたいな男』
『いいの、それでも。だって私はあなたと、あなたの歌に出会って恋をして、嬉しい気持ちも苦しい気持ちもどっちも知る事が出来たから』
本当に?
『俺といても、傷付くだけだぞ?』
『傷付いたって、それもあなたがくれたものなら、私は全部受け止めるから』
傷付けると、傷付くとわかっているのに、どうして?
『……本当に、いいのか?』
いや、だから、
『いいの!』
まぁ、ここはそういう流れだろうけど、
「あ!こら乃絵!また勝手に忍び込んで漫画読んで寛ぎやがって!」
ちっ、良いところで邪魔が入った。
「おかえりー克にい。だってここ防音だから外の音とか気にならなくて読むの集中出来るんだもん」
漫画から目を逸らす事なく兄の克に返事をする。
「そうだろうけど、ここには中学生の乃絵にはとても弁償出来ないようなちょっとばかし高価な機材とかも置いてあるんだから勝手に入るなって言ってるだろ」
我が家の敷地内には防音室がある。と言っても親は音楽関係の仕事などではなく、サラリーマンをしながら今でもバンドでドラムを叩いている父親の趣味が高じて防音室を作ってしまったらしい。母親はそんな父親が若かりし頃にやっていたバンドの元追っかけだったので勿論反対などしなかったそうだ。
そして先程私の憩いのひと時を邪魔してくれた九歳上の長男と六歳上の次男も親の影響でそれぞれバンドをやっているという音楽大好き一家の中で、私は何故だか全くと言って良い程音楽というモノに興味が沸かないのだけど、一人集中して漫画を読むのに丁度良いと気付いた日からこの防音室はかなり有効活用させて貰っている。
今日は日曜日で家族はそれぞれ用事があって出掛けているのを良いことに昼過ぎからここに一人で籠っていた。
「あはは、確かにここだと漫画読むのにも良さそうだな」
「………え?」
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