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「オリビア」
虚な心で呟く。返事はない。
テレビ画面の中では、飽きるほど見たエンドロールが流れている。僕はこのゲーム世界でもう何度、愛する君に会いに行ったことだろう。
やがてエンドロールが終わり、ゲームはタイトル画面へと戻る。
オリビア。
僕の愛する女性の名前であり、それはそのままこのゲームのタイトルでもある。
勇者が仲間とともに旅をして魔王を倒し、囚われの身となったオリビア姫を魔王城から助け出す。
何の新鮮味もないストーリー。やり込み要素もほとんどない。
おまけにエンドロール中に特定のコードを打ち込むとゲームが再起動不能になるという致命的なバグまで発見されており、今ではもうプレイしているような物好きはほとんどいないことだろう。
だけど僕は一生、このゲームに埃をかぶせることはできそうもない。
ゲームの中で僕の名前の付いた勇者と君が結婚しようが、本当の意味では結ばれないことは分かっている。僕らの間に横たわる次元という壁がなくなる日はきっと永遠にやってこない。
それでも、僕はまた当然のように「最初からはじめる」を選択し、君を救う旅に出ようとしている。
会いたいんだ、どうしようもなく。
ブロンドの長い髪にスカイブルーの涼しげな目。この世の誰よりも美しい君を、画面越しでいいから見ていたい。一秒でも長く。
だから哀れな僕はこうしてまた、君の元へ行くための最短ルートばかりを頭の中でなぞっている。
無機質な「Now Loading……」の文字が、僕を嘲笑うかのように画面の右下で光っていた。
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