仲良しの幼なじみだからね

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仲良しの幼なじみだからね

ずっと柊宇と一緒にいたから、小学校一年生の時のようにいじめられることは全く無くなってそれは大助かり。 それに、勉強もできてスポーツ万能、そんな柊宇が幼なじみであることが、僕には自慢だった。 だったけれど。 「どうして柊宇が僕と同じ高校を受けるの!? 」 中学に入ってからだって、成績はずっと学年トップの柊宇が、ごくごく平均、良くも悪くもない基準の偏差値50の僕と同じ高校に行くと言うから、驚いた声が裏返った。 「唯生と一緒にいたいから」 「…… ねぇ、それさ、もうだめだよ」 「なに? だめって。唯生は俺と一緒にいたくないの? 」 この頃には僕と背丈は二十センチは離れている柊宇の顔を、すっかり見上げる形になっていた。 中学受験はしなかったけど、トップクラスの高校に進めば柊宇のこれからはエリート街道まっしぐらのはずなのに、そこまでして僕と同じ高校に行く意味が分からない。 「唯生を一人で高校に行かせられるわけないじゃん」 「なんでよ、行けるよ、馬鹿にしてるの? 」 そんなことを言う柊宇に、僕は馬鹿にされているんだと思って、少し強めの口調になる。 「…… とにかく、俺は唯生と同じ高校に行くから」 「柊宇のお父さんとお母さんに恨まれちゃうよ、僕」 そう言って、大きくため息を吐いた。 「恨ませないよ。…… 俺は、唯生のそばを離れたくない」 ボソッと言った柊宇の顔が少し切なそうに見えて、胸がキュッとなった。 なに? 今の胸がキュッて…… 。 最初にそんな、そわそわした変な気持ちになったのはこのとき、中学三年生。 周りの反対なんか全くの無視で、柊宇は僕と同じ公立高校を受験した。もちろん、滑り止めなんか必要なくて塾に行く必要もない柊宇。 同じ受験生なのに、僕に勉強を教えてくれていた。 入学式では新入生代表の挨拶をしていた柊宇、入試の成績は当然トップだったようだ。 背が高くてスタイルも顔も飛び抜けて良い、女子たちの熱い視線を浴びている柊宇が僕には自慢だった。 「向井田(むかいだ)、なんで真伏がこの高校に来てんの? 」 同じ中学だった同級生が僕に訊く。 僕と離れたくないからだって、なんて言えなくて、「さぁ…… 」としか答えられない。 「お前らさぁ、ずーーーっと一緒だよな」 「幼なじみだからね」 「それだけかよ」 「ほかになにがあるの? 」 片方の唇の端を上げて、にんまりとして訊く同級生は何が言いたいのだろうかと、少し構えた。 「さぁね、それは真伏がよく知ってるんじゃん? 」 にやにやとして僕の顔を覗き込んだ時、 「そんなに近づいて喋らないでもらっていいかな? 」 いきなり柊宇が現れ、同級生の後襟を掴んで持ち上げた。 「な、なんだよ、ま、真伏は隣りのクラスじゃん、もう授業が始まるぞ」 「教室に戻ろうとしたら、お前が唯生にえらい近づいてるのが見えたから」 不機嫌な声の柊宇に、ばつの悪そうな同級生を前にして、僕はといえば居心地が悪い。 この場をなんとか収めないと、と必死になる僕。 「しゅ、柊宇…… ホントに授業始まるよ、クラスに戻らないと」 「ああ、唯生、一緒に帰ろうな、待ってろよ、てか、俺も待ってる」 にっこりと笑う柊宇を、皆んなが見ている。 さっき同級生が、柊宇と僕のことで何を言いたかったのかは、なんとなく分かっていた。 今に始まったことじゃない、中学の頃からそんな声は聞こえていた。 柊宇と僕は付き合ってる、って。 男同士で付き合ってる、って。 そんな噂を聞かされても、柊宇は何ひとつ変わらなかった。 変わらないどころか、 「言いたい奴には言わせとけ」 なんてカッコよく言うから、そうだよね、僕たちはすごく仲良しの幼なじみだもんね、って思った。 ずっと一緒だった。 つまらない噂で柊宇と離れてしまうなんて馬鹿らしい。 柊宇だって同じように思ってるはず。 僕たちは、すごく仲の良い幼なじみだって。
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