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巷で話題となった事、とある殺人事件の現場がこの廃屋だった。元々は桜屋敷などの酔狂な名前があって…。昼間は野次馬の類いがひっきりなしだが?流石に草木も眠る丑三つ時は、ひっそりと物音一つしない筈なのだが?派手にがさがさと何かを漁る音が響いていた。 「で?このような有り様って訳か?」 翌朝、人だかりの中心に同心はいた。 「なんとまあ、酷い有り様よな?屋敷のかたずけを頼んだのだが?逆に散らかされるとは、なんともけしからん事よ…。」 人だかりの中から、なんとも的外れな言葉が飛んできて、始めて屋敷の主が到着した事を知る。 「廃屋を買った酔狂な御仁とは、貴方様でしたか…。しかしこれは随分な散らかし様ではありませんか!酔狂が過ぎますぞ!怨まれるにも、程がある…。」 小物達が、あまりの惨状に顔色を変えて出て来る。中には所構わず吐いている輩も…。同心は知り合いらしく、主に愚痴を出してしまった。噂の絶えない屋敷を極彩色の噂を重ね着するような人物が買ったのだ。小間物問屋を他人に譲って、楽隠居の身分とは、いかなかったらしい… 「まっ、わしではなくて前の怨みでもこうはならんわい!事を荒立てたくはなかったが、こうなっては仕方ない、文に知られない様にかたずけようとして大事になってしまった。私は代理で覗きに来ただけだよ。名義だけ貸したつもりが、泣きつかれたんでな。こうなっては仕方なかろう。検分が済んだのなら、かたずけても、もう宜しいか?人足は集めてあるし、そちらだって都合が宜しいだろう?もう文に首根っこを掴まれたんだしなぁ…。」 金谷文蔵、通称かなぶんは苦い顔をして同心に頼んでいた。文と言う後妻に頭が上がらないともっぱら噂される。第八車と伴に、問題の屋敷から男の遺体が運び出された。火葬場に運ぶ前に盗まれた物らしかったが、そっちもそれで大変な事が起きている。文蔵は其所に行く途中だった。
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