俺、子供いたっけ

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俺、子供いたっけ

「持って三ヶ月ですね」  医者からその言葉を聞いたとき目の前が真っ暗になった。余命三ヶ月。たったそれだけで何ができるというのだろう。今まで独り身を通したこともそうだが、家族も頼れる友人もいない。好き勝手生きてきたら周りから人はいなくなった。親はいるが何十年も前に勘当された身で今さらのこのこ帰るわけにも行かない。  余命を宣言されたならば、まず何をすべきなんだろう。病院を出てから路地裏に移動して煙草に火を点ける。どう足掻いても生き延びる可能性はないなら煙草くらい好きに吸わせて欲しい。何なら酒も好きに飲ませて欲しい。  一服を終えて、帰路につく。仕事は辞めるか続けるか。生きるためには必要だったが、僅か三ヶ月のために働くのも馬鹿らしい気がする。 「……仕事は辞められないな……」  貯金などない。数十万でもあれば残り三ヶ月悠々自適に暮らしたが、その余裕すらない。 「でもまぁ悪かないか」  生きてきていいことなど、ほとんどなかった。職場ではお荷物扱いだし、学生時代も遊び呆けて何かに一生懸命になったこともない。打ち込める趣味もない。帰宅すればテレビを垂れ流して煙草を吸いながら酒を飲む。それ以外にすることはない。  小学生の頃は大人になるのが待ち遠しかったのに、そのワクワクはある日突然崩れた。  もうすぐ命を終える。誰も話せる人はいないが誰かに伝えたい。それに相応しい人はいないだろうか。  十二月の寒風を受けて、コートの襟を立てる。その横を子供の手を引いた女性が過ぎ去っていく。俺は振り返って子供の背を見る。 「そういや俺、子供いたっけ」
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