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明るい朝は、トーストの匂い
父さんと、母さんが別々に暮らすのは、仕方がないと思っていた。
だって、母さんは、夢見る男が好きなんだ。
口ひげを生やした、熊みたいな大男が、山の中に大きなブドウ園を作った。
潮風にあたることで薬剤散布が少なくても、健康なぶどうが育てられるらしい。
それを使って、完熟ぶどうを育て、ワインを作るのが、熊みたいな大男の夢だ。
その熊みたいな大男の夢に、母さんは夢中になったんだ。
母さんは、父さんと俺を家に残したまま、男の家で暮らすようになった。
そして、いつの間にか、母さんは俺の家族じゃなくなっていた。
でも、熊みたいな男も、母さんも、俺には「いつでも遊びに来て良い」って言ってくれたから、俺は時々遊びに行ったり、ブドウ園の手伝いをしに行ったりしていた。
母さんは、ちょっと遠くで暮らしている…くらいの感覚だったんだけど。
ある日、父さんが、超真剣な顔で「会ってもらいたい人がいる」って言ってきて。
ちょっと綺麗なレストランに連れて行かれた。
そこには、優しそうな女の人と、同い年ぐらいの男の子がいて、その人達と父さんと俺で、新しい家族になろうって言われた。
それで、気づいたんだ。
母さんはもう、俺の家族には戻らないんだって。
その時俺は九歳で、小学校三年生だった。
気づくのが遅いよね、ホント嫌になるよ。
優しそうな女の人は久美久美くみさんって名前で、男の子は海人君。
それから何度か、一緒に遊びに行ったりした、遊園地とか、水族館とか…
久美さんが作ってきてくれた弁当が綺麗で、しかも美味しくってびっくりした。
父さんは目玉焼きでさえ焦がしちゃうくらい不器用だから、見ただけで腹の虫がギューって騒いだ。
久美さんが、嬉しそうに色々取り分けてくれた、海人も「これが美味しい」とか「辛いの大丈夫?」とか、いろいろ話をしてくれて、俺が美味しくてびっくりしてたおかずなんて、自分の分を分けてくれたりして、胸の中がほわほわした。
海人は同い年で、サッカーの事や、ゲームなんかの話をしているだけでとっても楽しかった、学校の友達よりずっと気が合った。
この人たちと家族になるのも悪くないなっておもったから、父さんにそう言った。
父さんが、嬉しそうにしていたから、間違えてなかった…よかったって思った。
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