あえる、あえる。

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あえる、あえる。

「泣きたい」  その日、私の友達である杏実(あみ)ちゃんは、地の底まで沈んだ顔をしていた。 「というか、死にたい。誰かあたしを殺して。お願い樹奈(じゅな)。マジで、プリーズ」 「落ち着け」 「ああ、でもできれば痛い死に方は嫌だし、汚い死体になるのも嫌だなあって思うから首吊りとか溺死とかナシ。いろいろ垂れ流して死ぬのちょー汚いし、水で溺れて死ぬと水吸ってぶくぶくのやっべー死体になれるらしいし。ああ、でも電車に飛び込むのはバラバラになっちゃうのも嫌だな親に賠償請求行くって噂本当かどうかわからないけど、しかし楽に一瞬で死ねる方法が他にあるかというと」 「マジで落ち着け、大袈裟すぎ!」  壊れたスピーカーのようになってしまった彼女の頭に、どうにかチョップを決めることで強制終了させた。ちなみにここは放課後の教室。周りにクラスメートたちもばっちりいる。しかし、この病みまくっている女子高校生を気に留める生徒は一人もいない。  多分、こんなの思春期の黒歴史としては珍しくないからだろう。ついでに、杏実ちゃんがこのような物言いをすること自体珍しくない。というのも。 「ライブの抽選落ちるたびに死にたい発言するのやめなよ。ウザいよ?」  私はジト目になって言う。そう、彼女は単に落ち込んでいるだけなのである。人気ロックバンド“シザーハンズ”のライブチケット抽選が外れたために。 「だってえ」  ついに、杏実ちゃんは泣き声を上げた。 「だってだってだってえ!会いたかったんだもん、あたしのテリー!!」 「誰があんたのだ、誰が!」  テリーとは、シザーハンズのボーカルのこと。シザーハンズでも一番人気である。確かにイケメンだけども、と私はため息をついた。このモードになってしあった杏実ちゃんの扱いは非常に面倒くさい。以前もライブ抽選に外れた時、三日くらいはネチネチと呪詛を吐いてうざったらしかったのだ。  気持ちはわからないでもない。自分だって、推しイベントで会えないことがわかったら残念な気持ちになるのだから。問題は、彼女の落ち込みっぶりと絡みっぷりがどこまでも大袈裟だということである。なんとか、気を逸らす方法はないものか。 「……そんなに会いたいんなら、おまじないでもやれば?」  何でもいい。彼女がさっさと元気になってくれるのであれば。そう思って私が提案したのがこれだった。 「うちの学校の古井戸でおまじないすると、そこに会いたい人の顔が映ってお話できるんだってさ。知らない?」
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