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しかし、〈首のない夜会服の女〉が義足に触れるや、そいつのからだは、勢いよく後方に跳ねとばされていた。
ふっと息をつき、からだの力が戻ってくるのを感じる。そこへ、クロがもう一本の〈餓狼〉をくわえてきた。
『にゃっはっはっ、この大魔法使いさまがつくった義足だからな。ちょっとした力がある。
だがまあ、それはそうとして、〈餓狼〉がなぜ双剣なのか教えてやろう。一方は力を吸いとり、一方は力を放つ。ふたつでひとつなのだ。さっきおまえが手にしたのは力を吸いとる方で、これが力を放つ方だ』
言われてそれを受けとると、ばちばちと力が流れこんでくるのがわかった。これまでのように激しいものではなかったけれど、からだの自由がきくほどには。それに、この魔剣なら〈首のない夜会服の女〉を斬れる。そう思って〈餓狼〉を構えたところ、
『やめておけ。戦鎚のように喰われてしまったらどうする。そいつを失ったら、もとの世界へもどれないぞ』
と、忠告をうけた。
「しかし、どうしたらいいんだ。このままじゃ、みんな楢の木に変えられちまう」
『まあ聞け、おまえが相手にしているのは魔女の体だ。森へ入ってきた者を捕らえ、無差別に木に変えちまう。頭がないぶん単純な動きしかしないが、恐れも疲れも知らず、森にいるかぎり、あきらめることなく永遠に追ってくる不死の化物だ。たとえ〈餓狼〉で斬れたとしても、倒すことはできない』
「なら、どうしろと?」
ゆっくりと〈首のない夜会服の女〉が起きあがってくる。だらりと両手を垂らして、グレゴか、レナか、アーか、それとも俺か、だれを相手にしようか迷っているかのようだ。
『逃げろ』
「どこへ? そもそも森から出られるのか」
『いや、森のおくへ行け。耳をすませて、笑い声のする方へだ。そこに魔女の首がある』
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