第56話 楢の木

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 しかし、〈首のない夜会服の女〉が義足に触れるや、そいつのからだは、勢いよく後方に跳ねとばされていた。  ふっと息をつき、からだの力が戻ってくるのを感じる。そこへ、クロがもう一本の〈餓狼(がろう)〉をくわえてきた。 『にゃっはっはっ、この大魔法使いさまがつくった義足だからな。ちょっとした力がある。  だがまあ、それはそうとして、〈餓狼(がろう)〉がなぜ双剣なのか教えてやろう。一方は力を吸いとり、一方は力を放つ。ふたつでひとつなのだ。さっきおまえが手にしたのは力を吸いとる方で、これが力を放つ方だ』  言われてそれを受けとると、ばちばちと力が流れこんでくるのがわかった。これまでのように激しいものではなかったけれど、からだの自由がきくほどには。それに、この魔剣なら〈首のない夜会服の女〉を斬れる。そう思って〈餓狼(がろう)〉を構えたところ、 『やめておけ。戦鎚(メイス)のように喰われてしまったらどうする。そいつを失ったら、もとの世界へもどれないぞ』 と、忠告をうけた。 「しかし、どうしたらいいんだ。このままじゃ、みんな(なら)の木に変えられちまう」   『まあ聞け、おまえが相手にしているのは魔女の体だ。森へ入ってきた者を捕らえ、無差別に木に変えちまう。頭がないぶん単純な動きしかしないが、恐れも疲れも知らず、森にいるかぎり、あきらめることなく永遠に追ってくる不死の化物だ。たとえ〈餓狼(がろう)〉で斬れたとしても、倒すことはできない』 「なら、どうしろと?」  ゆっくりと〈首のない夜会服の女〉が起きあがってくる。だらりと両手を垂らして、グレゴか、レナか、アーか、それとも俺か、だれを相手にしようか迷っているかのようだ。 『逃げろ』 「どこへ? そもそも森から出られるのか」 『いや、森のおくへ行け。耳をすませて、笑い声のする方へだ。そこに魔女の首がある』
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